第52話 忠義の酒
「うむ、上々だ。よくそこまで突きとめてくれた。宴席ではあるが、次の主命をお前たちに伝えておこう。晴明から受け取ったという紹介状を持ち、妖狐山へ向かってくれ。九尾の狐とうまく交渉し、国鎮めの銀杯を手に入れてほしい」
「承知いたしました。必ずご期待に沿います」
「承りました。必ず銀杯を持ち帰ります」
守綱と竜次は姿勢を改め、主君、平昌幸を敬う礼節を示した。守綱ばかりでなく、竜次も最早、昌幸に対して深い忠誠心を抱いている。この壮年の頭領には、それだけの人徳と魅力が備わっていると言えるだろう。頼もしい猛者たちが発してくれた忠義の返答を聞き、昌幸はとても嬉しく、
「守綱、竜次、ありがとう。だが、お前たちは旅で疲れていよう。2日間の休暇を与える。その後に、また咲夜とあやめを連れて、九尾の狐のところへ向かえばよい。まずゆっくり休め」
と、先に2人の疲労を考え、休養を命じた。これは主命であるが、褒美でもある。主君の心遣いに深く礼をとると、守綱と竜次は、盃の残り酒を飲み干し、また宴を存分に楽しみ始めた。
「竜次さん、妖狐山へも、またご一緒できますね。危なくなったら、また助けてあげますよ?」
「はっはっはっ! 違いない! 咲夜姫には、度々戦いで助けられています。上がる頭などありませんよ。九尾の狐となにかがあっても、頼りにしています」
咲夜は竜次の席まで近寄り、何杯も酌をしてあげている。話の内容も、主従というより、まるで年の離れた夫婦のような、そんな風さえ感じられ、
(良いな、竜次が義理の兄弟になってくれるのなら、こんな心強いことはない)
少し間を空けて、2人の仲睦まじい様子を見守っている幸村などは、そんな気が早いことを考えていた。傍にいる桔梗も、同じことを思っていたようで、幸村と優しい目で顔を見合わせている。
休暇を2日与えられた竜次は、旅疲れを取るため、自宅の静かな寝床で半日ほどぐっすり眠った。それでほとんど気力体力とも回復したのだが、まだまだ自由な時間は残っている。そこで、妖狐山へ向かう旅支度を入念に整え、ここまで様々な戦いで竜次を導き、助けてくれた、宝刀ドウジギリの手入れも行った。それでもなお、休みが丸一日余っている。
「これは『縁』で飲むしかないな。咲夜姫には、また軽蔑されるだろうが……構うものか!」
咲夜が注いでくれる酒と話は、どちらも楽しい。先日の宴会を思い浮かべ、そう考えてはいたが、酒と飲み屋が好きでしょうがない竜次の心に、どうしても倶楽部『縁』の居心地の良さが残っており、ついフラフラと、足がそこへ向かってしまった。しょうがない男である。