第48話 狐耳の女
「納得がいったなら始めるとしよう。下ごしらえは終わっている、さほど時間はかからぬ」
晴明は普段どおりの声で、そう伝えたあと、流麗な動きで五芒星の印を結び、赤水晶の玉へ向けて、強く鮮やかな青色の法力を手のひらから発した! 得も知れぬ強力な干渉を受けた赤水晶の玉は、置かれている台座からゆっくりと浮き、青の法力を赤の力強く広がる光に変換する! そしてその光は姿見の鏡に、あるはっきりとした光景を写し込んだ!
「これは!? 山ですかね? 山の森林の中に、庵が一軒ある!」
竜次は、あまりの驚きに武者震いを覚えながら、変化する光景を食い入るように見続けた。まるで、どこまでも見通す千里眼に、顕微鏡の拡大倍率が付き、それがどんどん高倍率に切り替わっていく。姿見の鏡に映され、次々と変わっていく光景は、まさにそれであった。そして、徐々に薄れていく赤の光が最後に映し出したのは、美しくも妖しい狐耳の女の姿である。
「占いはこれで終わりだ。いくらか、心当たりがあるかね?」
「狐耳の女……これはもしや、妖狐山では!?」
あやめは優秀な忍者である。その特性から、今まで駆けてきた連理の都周りの野を思い出し、姿見に映し出された光景を手がかりにして、山の名前を言い当てた。晴明は、こちらの顔を窺うあやめをちらりと見て、少しだけ顎を引きうなずく。
「連理の都から見て北西、あやめさんが言う通り、妖狐山だ。ならばその山は、なぜ妖狐山と呼ばれているかも知っていよう」
「九尾の狐が住むという……まさか、あの狐耳の女がそうなのですか?」
可愛らしい三日月目を驚きで見開きつつ、咲夜が答えた。彼女が正直に、少々狼狽しつつも返した言葉が何かしら面白かったようで、晴明は笑いながら、
「それはそうであろう。見たままだ、あの女狐がそれだよ」
と、どことなく懐かしそうな顔で教えている。いったい、どういうわけであろうか? 人智を超えた力を示す陰陽師が浮かべる表情に、疑問を持った咲夜は、単刀直入に尋ねてみた。
「なんとなくあなたの顔が、少し嬉しそうな表情に、私には見えます。晴明さん、九尾の狐と何かしら関係があるのですか?」
「ああ、顔に出ていたか。あの女狐の顔を見るのも久しぶりでな。友人というわけではないが、私にとっては知人といったところか。まあ九尾の狐は人と言えないがな、昔なじみだよ」
どうということもなく、人外に知り合いがいることが当然であるように晴明は言う。竜次たち4人は皆、狐につままれた表情でその言葉を聞き、呆然とするばかりであった。




