第47話 早とちり
赤水晶の玉と姿見の鏡、強い法力が漂う、2つの占い道具の配置を一通り済ませると、晴明は、ある意外なことを竜次たち一行に尋ねた。
「さて、これから国鎮めの銀杯がどこにあるかを、詳しく占うわけだが、残りの6つの銀杯の内、在り処を教えてやれるのは1つだけだ。それでもいいかね?」
「えっ!? それはどういうことでござるか!? 残り全部を占ってもらえぬのか!?」
ここまで予想していたより、非常に友好的であった晴明が、急に心変わりをし、言うなれば、約束の一部を違えんとしているように、守綱には映った。
(ここで偏屈を出したか!)
そう考え、色をなした守綱が、陰陽師晴明に詰め寄ろうとしている。それを落ち着いて制したのは、歴戦の侍大将の主人にあたる咲夜であった。
「理由を聞かせて頂けませんか? 晴明さん? それでどうするかを決めます」
「よかろう。実は、あなた方が賊討伐に向かっている間、私はあらかじめ、6つの銀杯のおおよその在り処を占っておいた」
「えっ!? それならば、なおさら何故ゆえに!? それを教えて下さればよかろう!」
冷静に咲夜が聞き、引き出した晴明の言葉に対し、守綱はますます混乱し、激昂せんばかりであったが、理由の説明はまだ途中だ。大人しくするよう咲夜が再び制し、晴明が続けようとしている残りの言葉を静かに待った。
「6つの銀杯の内の5つには、非常に強い鬼の瘴気がついて回っておる。あなた方は見る限り、2匹のイエローオーガを倒すのに、そこそこ手こずったようだな。その程度の力では、それより強大な力を持つ鬼には勝てまい。私の占いでは確実にそう出ておる。あなた方の今の力ではな」
「つまり力不足だから、今の力でも何とか持って帰れる、1つの銀杯の在り処しか教えられない、ということですか?」
晴明は、咲夜の飲み込みが早い、聡い返しに深くうなずく。前もって行った占いにより、竜次たちが命を落とす運命を、この陰陽師は赤水晶の法力で見通している。それを避けさせるために、敢えてその運命を濁して言わず、違う運命に進ませようとしているのだ。
(私もどうかしておるな。普段なら放っておくものを)
実のところ晴明自身も、なぜここまでの親切心を、竜次たち一行に対して示しているのか、はっきりとは分からない。ただ確かなのは、晴明が竜次に対して、他人とは思えない形容し難い、不思議な親近感を覚えているということだ。
(どこかで縁があったような……そんなはずはないのだが)
一連のやり取りの間、竜次は座布団に黙って座り、真っ直ぐにこちらを見続けている。晴明は自分に向けられるその眼差しを受けて、心の片隅で、そう考え続けていた。