第45話 まず食べなさい
竜次の迷いが晴れた顔を見て安堵した主人の咲夜は、イエローオーガが変化した黄色く輝く宝珠を静かに拾い集めた後、それでも、いたたまれない所が心の内にあったようで、丁度こちらを向いた彼に対し、こう尋ねている。
「竜次さん、主人として聞きます。あなたをアカツキノタイラにどうしてもと招いたのは私です。これからあなたは、何人もの人を斬らなければならないでしょう。本当によろしいのですか?」
「ええ、もう覚悟を決めました。それに俺が斬ることで、国鎮めの銀杯を早く集める道筋がついてくるなら、その方が、死ななくて済む人間が増えるでしょう? この世界の乱れを収める手伝いを続けますよ」
「竜次さん……ありがとうございます」
咲夜は聡く思いやりがある姫だ。彼女は心の片隅で、異世界の人である竜次に対し、戦わせる責任をずっと感じていた。すっきりした表情で、どこまでもついていくと答えてくれた竜次に咲夜は救われ、心の重荷がいっぺんに軽くなっている。
賊討伐を首尾よく済ませ、日陰の村へ戻った竜次たち一行は、まず、賊共の亡骸を片付け、埋葬してもらえるよう、村の有力者の邸宅へ頼みに行った。人殺しの外道たちではあるが、同じ人間である。ひどい被害に遭った村人がいる中、その有力者は村内をうまくまとめ、野辺にホトケとなった7人をそれぞれ焼き、骨を埋める段取りをつけてくれた。
「これで安心して、晴明の庵に帰れますね」
「ああ、化けて出られると寝覚めが悪いからな」
至極まじめなつぶやきを漏らしたあやめに、竜次は豪胆な、ともすれば軽口のように聞こえる彼らしい返しをしている。相変わらずの、いつもの竜次に戻れたようだ。
(うむ、これなら良いじゃろう)
何があっても、もう竜次の心は乱れまい。守綱は、明るく笑う頼もしい部下の顔を見て、微笑みを浮かべた。
白壁の広い庵に帰ってくると、もう昼を回っていた。その中に一行が入ると、
「帰ってきたかね。腹が減っただろう、昼飯が出来ている。まず、食べなさい」
この時刻に帰ってくるのが分かっていたかのように、晴明は、温かい日陰菜の雑炊を作ってくれていた。
(不思議なことではないわ。晴明だもの)
いちいち驚く必要などない。咲夜はそう悟り、囲炉裏回りに敷かれている座布団に正座すると、竜次たち3人も上がって来るように促した。
それぞれの木椀に晴明が注いでくれた、日陰菜の出汁味噌雑炊は温かく、戦いで疲労したそれぞれの体を癒やすのに、十分な滋養がありそうだ。雑炊をすすり、皆が気力体力を取り戻した後、変わらぬ涼やかな目で、晴明から話しかけてきた。