第41話 手応え
賊の根城までは、徒歩で向かうことになる。日陰の村から遠く外れた、日陰山の北麓まで廻り込むわけだが、道中、道はついているものの、それは段々と細くなり、ついには草が生い茂る中を踏み固められただけの、獣道へと変わってしまった。
「戦でこういう道を行くこともあるが、これはなかなか堪えるものだな」
「私が先に参ります。咲夜様たちは、あとをついてきて下さい」
あやめは慣れた足取りで、荒れた道を何事もないように進んでいく。そのあとを、竜次たち3人がついていくのだが、忍びの鋭敏な感覚で、獣道の要所要所を抑えているのか、不思議と消耗することなく、楽に足を運べた。この分なら、山麓の根城で賊の討伐を始めるまで、余計な体力を使わずに済む。
順調に足が進み、高い日陰山の陰が、辺りを覆っているうちに、賊の根城であろう2軒の小屋にたどり着いた。まだ朝であり、賊共は小屋の中で深く眠り込んでいそうだ。
「守綱さん、どうします? 小屋の戸を蹴破って、こっちから仕掛けますか?」
「いや、それはやめておこう。小屋が2軒に分かれておる。戸を破ると、こちらの戦力が二手に分散してしまう」
「なるほど、とすると?」
こういう場合も想定していたのだろう。守綱は、咲夜の方を向き、
「姫、花火鉄砲を」
と、促すと、咲夜は無限の朱袋から、トリガーがついた筒花火を取り出した。花火鉄砲と守綱が言った通り、拳銃のような設計になっており、トリガーを引いて花火を撃ったとしても、身の安全が保たれる道具の形状である。
「それでは撃ちます。大きな音がしますよ~。びっくりせず、賊たちの機先を制して下さい」
見慣れない道具を見て、竜次は一瞬だけ戸惑っていた。しかし、一連の流れを見て頭を整理し、咲夜と守綱が目配せしてくれたので、すぐに合点がいったようだ。つまり、花火鉄砲で大きな音を立てて賊共を起こし、小屋から出てきたところに先制攻撃を加えるという作戦だ。
トリガーを空に向かって引くと、軽いながらも、高く響き渡る大音が辺りにこだまし、熟睡している賊共は、
「な、何だ!? いったい!?」
と、2軒の小屋からこぞって飛び出してきた! そこへ飛んできたのが3本の高速の刃であるから、堪ったものではない!
「グワーッ!?」
ある者は、断末魔の叫びを上げ事切れ、ある者は、その声すらも上げず、息絶えた。
(賊とはいえ、異世界で人斬りになっちまうとはな……)
そのうち、こういう時が来るのは分かっていた。覚悟してなお、人を殺めた手の感触に、竜次は言い難い違和感を覚えている。だが、残る賊の数は多い、感傷に浸っている間などない。