第4話 国鎮めの銀杯
辺りを優しい微笑みで見守るお地蔵さんの前に、小さな石杯が置いてある。お供え物を入れておくための器として使われており、杯の中には包み紙が付いた饅頭が一つ入っていた。
「間違いなくこの石杯だわ。ごめんなさいね、お地蔵様。しばらくこの杯を借ります」
そう手を合わせつつ断ると、咲夜は地蔵の目の前にある石杯を手に取り、錦の袱紗をふっくらとした胸元から取り出した。
綺羅びやかな粉? または、砂だろうか? それを袱紗から白く細い指でつまみ、咲夜はゆっくりとまんべんなく石杯にかけていく。一瞬、ほんの小さな虹がかかったかと思うと、石杯は混じり気のない銀杯に変化した。
「魂消たな……石杯が銀杯に変わっちまった。でもよ、どういう仕掛けでそうなったんだ?」
「これは元々、『国鎮めの銀杯』という非常に強い法力を持った物で、長い年月を経てその力を失ってしまい、石杯となり、なぜか分かりませんが日本のここに流れ着いていました。おおよその場所を探し当てることができた私達は、竜次さんから見て異世界であるアカツキノタイラから、杯に力を取り戻させ、それを借りるためやって来ました」
高価なだけでなく、特殊な力を持つ錦の袱紗を竜次に見せ、咲夜は言葉を続ける。
「先程、石杯にかけた物は、『時送りの砂』です。元の強大な法力を持つ国鎮めの銀杯に戻すため、砂の力で遥かな時を遡りました。竜次さん、この銀杯の力がお分かりですか? 何か感じる所がありますか?」
不思議な問いかけである。しかし、咲夜が言わんとしていることが、竜次にはすぐ分かった。眺めているだけで、この辺り一帯を落ち着かせるような安心感が、国鎮めの銀杯から漂うのが感じ取られる。
「分かるぜ。只の銀杯じゃあねえわけだ。それに酒を注いで、ぐいっと飲んだらうまそうだがな」
「なんと!? ふざけたことを申すでない!」
少しばかり堅い性格の兵団長守綱は、竜次の態度を多少慌てて咎めた。だが、対照的に主人である咲夜は、おかしそうにクスクスと笑っている。
「あー可笑しい! 私、決めました。竜次さん、アカツキノタイラに来てくれませんか? 私がいる世界と国、私自身を守って欲しいんです」
銀髪姫の凛とした眼差しは真剣そのものである。自分が握っている、宝刀ドウジギリと咲夜を交互に見て、
(面白い話で、面白い娘だ)
と、興味を大いに持ち、良い返事をしようと竜次は考えたが、まだ、腑に落ちないことがいくつか残っており、咲夜に問いただした。