第33話 馬上の旅は悪くないが
「では、改めて主命を言い渡す。縁の国の東、晴明がいる隠れ里へ向かい。国鎮めの銀杯の在り処を占いで突き止めてくれ」
「かしこまりました。1つ目の銀杯の在り処は、晴明の占いで突き止めたのでしたね。陰陽師として、彼の者の力は、間違いないものです。問題はすんなり占ってくれるかどうかですね」
「そういうことだ。以前の占いでも、こちら側は難儀を見たものだ。今回も無理難題を言ってくるかもしれぬ」
竜次以外の一同は何かを思い出しているのか、一様に難しい顔であちこちを見ながら考え込んでいる。そんな様子の中で、彼は何のことかよくわからずキョトンと佇んでいたが、
「何にしろ、他に手段がないんでしょう? じゃあ何があろうと、行って話をつけてみるまでですよ」
そう頼もしく請け負った。さっぱりした竜次の気風に、皆、難しい顔を緩め、ある者は笑っている。
無限の青袋に、旅の路銀と傷薬などの必要な道具を詰め、支度を整えた翌日、竜次は守綱、咲夜、あやめの3人と共に、馬上の人になっている。軍用馬を借りて国の東まで移動するのだが、縁の国は領土が広い。馬を飛ばしても、晴明の隠れ里まで丸3日かかるという。先日戦った浄土山は、それに比べれば、連理の都からほど近かったと言える。
「咲夜姫。アカツキノタイラには自動車……いや、車という乗り物はないんですか?」
「ありますよ。車輪が付いていて動く物ですよね? 竜次さんも何度か都で見てないですか?」
「ああ……いや、そういうやつではなくてですね、超速子の力を使って動くようなものです。人力ではなくて」
馬を走らせる旅も悪くない。そう思いながら旅路を進んでいた竜次は、ふと疑問が浮かび、咲夜に尋ねた。いわゆる、地球の文明社会で走っている自動車が、この異世界になさそうなのが気になったのだ。エネルギー技術においては、地球の文明より進んでいる点が多いのに、
(それを応用した物が、思ったより少ないな)
という感想を、竜次は馬の上で持たざるを得ない。
「竜次さん、素晴らしい発想ですね! そんなことを考えた人は、アカツキノタイラではほとんどいないでしょう。超速子を使って動く車ですか~。そんな便利な乗り物があればワクワクしますね」
「ということは……そうかそうか、分かってきました。俺が日本で勤めていた工場では、今言った自動車という乗り物を作っていたんですよ。だから良い発想というより、なんかしっくり来なかったから尋ねてみたんです」
ここにきて初めて言うが、竜次は自動車工場のライン工を長年やっていたわけだ。最近では電動車の生産ラインを担当していたので、超速子があるのにどうして、という疑問が浮かんだのも、自然なことかもしれない。