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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
終章 天の国・開放編
313/321

第313話 思い出の名酒

 全てを話し終えた夢幻は穏やかに目をつむり、やがて来る死を静かな形で迎え入れるばかりとなった。最愛の弟、宵暁縁(しょうぎょうえん)を、冥界の奥深くから救い出せなかった心残りはあるが、彼女は竜次に討たれ、復讐の葛藤から解放された。苦しみの無限ループから解き放たれた夢幻の心に、この世への未練など微塵も残っているはずがない。


 しかし、(はかな)く綺麗な顔で静かに死を待つ夢幻とは対照的に、太陽神天照は、全てを告白した彼女を見て、心に深い自責の念を負っている。天照は、息が細くなり、もうすぐ命の終焉を迎える夢幻の傍へ寄ると、頭を下げ、


「精霊であるあなたと宵暁縁は、かつて私たち3姉弟に、献身性をもって仕えてくれました……。今更ですが、あなたたち姉弟に与えた罰は、苛烈過ぎたと後悔しています。もうこんなことで許してもらえるとは思いませんが……」


 悲しい目でそう謝罪した(のち)、彼女に天岩戸の方を見るよう促した。


 夢幻と竜次たちがそちらへ目を向けると、天の国と冥界を隔てる岩戸が開いており、幽玄な世界の入口に、夢幻とよく似た目を持つ青年風の男が、半透明の精神体の姿で立っていた! 夢幻の弟、精霊宵暁縁だ!


 最愛の弟が、天岩戸の前まで自分を迎えに来てくれている。命を懸けてでも会いたかった宵暁縁の姿を目に映した夢幻は、微笑んだまま、


「許されたのね、よかった……」


 そう消え入るような声で言うと、事切れ、竜次の両腕の中で半透明の精神体に変化した。腕の中に彼女がいる手応えをもはや感じなくなった竜次は、そのまま天岩戸の前に立つ宵暁縁のところまで歩き、彼の両腕に夢幻の精神体をそっと抱かせる。すると、


(竜次さん、君には何もかも世話になったね。ありがとう)


 宵暁縁は全てを見ていたのだろうか? 竜次の心奥へそう語りかけ、心からの感謝を笑顔で伝えた。


 これで心残りは、もう何もない。宵暁縁は竜次の姿をしばらく茫洋と眺めた後、最愛の姉、夢幻と共に、天岩戸から再び冥界へと旅立って行く。




 全てを成し遂げた竜次たち5人は、天の国とアカツキノタイラを結ぶ光の(きざはし)から、縁の国連理の都に帰って来た。


 英雄となった一行(いっこう)を大宮殿神事の間で迎えた、昌幸、幸村、桔梗の平一族と家臣団は、彼ら彼女らの無事をこれ以上なく喜んでおり、守綱などは嬉しさのあまり竜次に抱きつくと、声を上げて号泣していた。


 アカツキノタイラは完全に平定され、真の平和がもたらされた!


 英雄たちが帰還して数日後、この世界を救った5人の栄誉を称える、縁の国を挙げての大祝宴が開催された。しかし、主役の一人である竜次は、宴をそこそこに大宮殿を抜け出してしまう。彼が向かった先はというと……


「開いてるかい? 入るよ」


 精霊夢幻がいなくなった倶楽部『縁』であった。


 カウンター席にさり気なく座った竜次は、思い出の名酒をお気に入りのぐい呑みで、一人静かに呑み続けている。


 『縁』には、若ママのいい匂いがまだ少し残っていた。

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