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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
終章 天の国・開放編
305/321

第305話 麒麟

 兄弟仏師、山蝉・川蝉は、戦う力を持ち合わせていないが、幾星霜(いくせいそう)も自己研鑽を重ね身に付けた、その眼力は確かである。坊主頭の2人は、竜次たち一行、一人一人の姿を目に映しただけで、それぞれが持っている実力を正確に見抜いていたらしく、


「事を頼んだ手前で悪いんじゃが、お前さんたち、今の力で天岩戸に行ったとしても、犬死にするだけじゃぞ?」


 と、にべもなく言った。


(腕の良さは神がかっているんだろうが、昔の伝承にある通り、変わり者の兄弟仏師だな)


 竜次たち5人は、つっけんどん気味な山蝉の言葉に多少呆れていたが、


「それは分かってるんだよ。月読から聞いたんだけど、あんたらは、私たちの潜在力を引き出してくれる神様のことを知ってるんだろ? それを教えておくれよ」


 と、気を取り直した仙が、そう要求したことで、ようやく山蝉・川蝉は、伝えることが残っていたのを思い出したようだ。


 山蝉・川蝉が話した情報によると、竜次たちの潜在力を引き出せる神々は、高天原から見て北の方角に立つ2基の大鳥居を(くぐ)り、幾らか進んで行ったところにいるらしい。坊主頭の兄弟仏師は、高天原から2基の大鳥居までは、それなりの距離があり、多少移動時間がかかるだろうとも、追加で一行(いっこう)に教えてくれた。


 そうした重要な話をしている途中、川蝉は、竜次の顔をまじまじと見て、


「大鳥居は北と東に1基ずつ立っておるが、お前は北の鳥居を潜らねばならぬ。他の者たちは、東の鳥居を潜れ」


 と、どういうわけか分からぬが、意味深なことを言っている。


(そういうことか)


 川蝉の竜次へ向けた一言を聞き、晴明だけは何かに気づいたらしい。陰陽師の彼は、昔の面映いことを思い出したように、少し笑いながら、端正な顔を下に向けていた。


「もう一つ付け加えで教えておく。天の国に昇って来た精霊夢幻の甚大な霊力に当てられ、荒ぶった麒麟に、道中、遭遇するかもしれぬ。気をつけるがよい」

「麒麟? それって物語なんかで出てくるあの神獣のことかい? 上の世界は物騒だねえ。そんなのがウロウロしてるのかい」


 やはり天の国は何があるのか分からない。思わぬ内容の忠告を聞き、仙は少々おどけたように肩を(すく)めて応えたが、川蝉は、その反応をさして構うことなく、


「天の国とはいえ、物騒になる時もあるということじゃ。大鳥居までの道中、神獣麒麟に遭遇し、襲いかかられたら迷わず斬れ。麒麟はどう斬っても()()()()()


 と、若干謎めいたアドバイスを竜次たち一行に送った。




 精霊夢幻の復讐を止めるという最終目的の性質上、天の国での旅は短いものになるだろう。そもそも今現在、天岩戸で、天照と金剛仁王像が、夢幻の激しい攻撃を食い止めている最中であり、残された時間はあまりない。


 山蝉・川蝉から大鳥居に祀られる神々の情報を聞き、高天原を出た竜次たち一行は、新たに身に付けた空中移動の能力を使いつつ、浮遊大陸や雲の上を北に急いでいた。空を行く旅路は、途中まで何事もなく爽快だったのだが、川蝉が前もって忠告していた通り、道中、ひどく興奮し荒ぶっている神獣麒麟に、一行(いっこう)は遭遇してしまう。


 額に角を生やし、聖炎を身にまとった麒麟は、ホバリングの形で空に浮かんでおり、


「クオォーン!」


 高い周波数の鳴き声を辺りに響き渡らせると、急激な加速度をつけ、竜次たちに突撃してきた!


「おおっと! なかなか速いな! 漂わせている霊力からすると、前鬼の幻体と同じくらいの強さか!」


 竜次は麒麟の突進をかわしつつ、その戦力を正確に推し量っている。前鬼の幻体と同程度と言えば尋常でない強さだが、幾多の戦いや修行を(くぐ)り抜けてきた今の竜次たちにとって、荒れ狂う神獣麒麟は、空中移動や波動剣の使用法に慣れる格好の相手だ。


「クオオォォーン!!」


 突進をかわされた麒麟は、反転して体勢を整えると、身にまとう聖炎を拳大ほどの(たま)に変え、前線で構える竜次とあやめに撃ち放ってきた! 高速で向かって来る無数の聖炎は、到底かわし切れるものではない! しかし!


「…………!」


 ドウジギリ・改の刃が帯びた練気の波動を盾にし、竜次は聖炎の弾丸を全て打ち消した!


「シッ!」


 竜次が盾となり、麒麟の聖炎を防いでいたその間! あやめは空中移動を駆使し、右手から回り込むと、正確無比な斬撃で麒麟の首を刎ね飛ばした! 麒麟は首を斬られた瞬間、霧が散らばるように消え去り、辺りには戦う前の静かな空気が戻っている。


「消えてしまいましたね……。黒曜石の霊力で召喚された時の前鬼と後鬼のように、麒麟も幻体の姿だったのでしょうか?」

「恐らくそんなところだろうな。体も霊気もきれいに消え去った。次は当分現れないのではないか」


 麒麟を斬ったあやめの疑問に、何とない推測と体感で答えた晴明は、


「さて、邪魔は無くなった。どんどん進もう」


 そう促し、残りの道程を皆と急いだ。

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