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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
終章 天の国・開放編
304/321

第304話 山蝉・川蝉

「ここまで長い話になったが、夢幻が復讐を果たし、天の国を(つかさど)る神である、我が姉、天照を殺し、冥界へ続く天岩戸を開いてしまえば、世界の均衡が保てなくなり、ひいては崩壊してしまう。それだけは絶対に避けなければならない」


 精霊夢幻は、我が弟、宵暁縁(しょうぎょうえん)を救い出すためなら、この世界が壊れても構わないとまで覚悟を決めている。いずれにしろ、復讐の権化となった今の彼女はまともでなく、何とかして最悪の事態を起こさないよう、食い止めるしか選択肢がない。


「結論を言うと、我々は、お前たちを頼りたいのだ。手を貸してくれるか?」

「いいぜ。そのために天へ上がって来たんだからな。でもよ、今の俺たちの力じゃ話にならないんだろ? それはどうしたらいいんだ?」


 無作法ながら、何の迷いもなく頼みを受けてくれた竜次に、月読は笑顔を向けると、力不足の問題を抱える彼ら彼女らの疑問に答えるべく、話を続けた。


「ふふふっ、竜次と言ったか。お前は竹を割ったような面白いやつだな。先ほど私は、つい、ため息を吐いてしまったが、その点はお前たちの努力次第で、何とか問題を解消できる。眠っている力を、短時間で大幅に引き出す方法があるのだ。その更なる力を身に付けるために、お前たちは、天の国に祀られる、ある神々に会わなければならないのだが……」


 月読はそこで一度言葉を切り、竜次たち一行を近くに呼び寄せ、


「まず我々兄弟からお前たちへ、特殊能力を贈りたい」


 そう一言だけ続けた後、末弟、素盞嗚(すさのお)と少しの間、何かの役割分担を話し合った。相談を終えた兄弟神は、竜次たち一行それぞれの体と2振りの刀へ手をかざし、神力を注いでいく。


 月読の神力をその身に受けた竜次たち5人全員は、天の国に限った空中移動能力を、素盞嗚(すさのお)の神力を、我が半身とも言える愛刀、ドウジギリ・改、コギツネマル・改に注がれた竜次とあやめは、波動剣の能力を授けられた!


「この力は……。体の中の気の巡りが、以前とは変わりましたが?」

「やはり感覚で分かるようだな。空中移動と波動剣、お前たちに授けたどちらの特殊能力も、神力により変化した気の巡りをコントロールして発動させるものだ。使いこなすには多少慣れがいるが……まあ、お前たちなら、高天原の外へ出て何度か能力を発動させる内に、すぐコツをつかめるだろう」


 月読から説明を受けたあやめは、コギツネマル・改を鞘から抜き、試しに刀と一体となったイメージで、気を深く集中してみた。すると、コギツネマル・改に気の力が通り、その刃は、無色透明に揺らぐ練気の波動を帯び始める!


 早速、発動のコツをつかんだあやめを見て、素戔嗚はうなずきながら、月読の説明を補足した。


「うむ、うまくコントロールできているな。波動剣は、気を集中することで刀から波動を放ち、法術のように遠距離攻撃が可能となる技だ。使いこなせば、戦い方の幅がグッと広がるぞ」


 竜次たち一行は、天の国での活動と戦いにおいて、必須とも言える2つの特殊能力を授けられた。一行(いっこう)から漂う気の変化を確認した上で、月読は、


「よし、それでは次にお前たちが取るべき行動について話そう。高天原内にある天界工房へ行き、山蝉・川蝉の兄弟仏師に会え。あの2人は仏を彫ることにしか興味がない風変わりな兄弟だが、お前たちの力を引き出せる、ある神々について、詳しい情報を持っている。それを聞き出して来るのだ」


 そう話を締めくくる中で、大理石の宮殿から出てどうすればよいか迷わぬよう、竜次たち5人に丁寧な指示を出した。




 高天原の外れにある、雲上の天界工房へ行くと、坊主頭の山蝉・川蝉が、高天井の建物内で、壮大なスケールの仏像を彫り進めていた。2人とも彫刻作業に集中しすぎており、竜次たち一行が工房内へ入ってきたことに、全く気づいていない。


「すみません! あなた方は、仏師の山蝉・川蝉さんですよね! お話があって参りました!」


 咲夜が大きな声を出して呼びかけると、坊主頭の兄弟仏師はようやく一行に気づき、仏像を彫っていた手を止め、脚立から降りてきた。


「何じゃな? お前さん方は? 話とは?」


 町外れに建つこの天界工房を訪れる者は滅多にいないらしく、山蝉・川蝉は竜次たち一行を物珍しそうに見ながら、5人の素性などを聞いてきた。その質問に答えるべく、咲夜は、精霊夢幻を追うため、国渡りの儀式で人間界から天の国へ登って来たこと、伝説上の兄弟仏師である2人を知っていることなど、ここまでの経緯を話した(のち)、山蝉・川蝉に協力して欲しいと訴えている。


 咲夜が話す詳細な経緯を静かに聞き終えた、坊主頭の兄弟仏師は、


「なるほどな。お前さんたちは、丁度よいところに来てくれた」


 そう一言(こた)えると、咲夜に紫色の小さな布袋を手渡した。傍にいたあやめが何かと聞くと、袋を渡した山蝉は、金剛力の香木であると答え、次のように話を続けた。


「天の国と冥界を隔てる天岩戸では、わしら兄弟が彫った金剛仁王像が門番をしておる。2体とも、意志と神力を持った仁王たちでな、天照と共に、岩戸の前で夢幻を食い止めているはずじゃ。そうなんじゃが、夢幻の霊力はとてつもなく強い。岩戸を開かせまいと身を挺している仁王たちの体は、夢幻の攻撃を受け、今頃ボロボロになっておるじゃろう」


 そこまで話して山蝉は一旦言葉を切り、弟の川蝉と共に頭を振って、金剛仁王像の身を案じた。仏師にとって心血を注いで創り出した大作は、我が子同然なのだろう。心境を察するに、この兄弟はそんな顔をしている。


「わしらの協力が欲しいということじゃが、逆にお前さんたちに頼みたい。さっき銀髪の姫さんに渡した金剛力の香木は、仁王たちの力と体を限界以上に回復させる道具じゃ。その香木を、天岩戸の前で踏ん張っている仁王たちに投げ、何とか助けてやって欲しい」


 山蝉・川蝉は、金剛力の香木の効果について説明した(のち)、仁王たちを想うあまり、竜次たち一行へ深く頭を下げ、頼み込んだ。


 竜次たちは兄弟仏師の想いを酌み取り、責任を持って困難な依頼を引き受ける。

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