第302話 姉弟神の負い目
神々との面会の許可が下り、門番を務める神兵の案内を受けた竜次たち一行は、荘厳な大理石の宮殿中央部、統治神の間に通された。床も内壁も、よく磨かれた大理石で造られているその広間では、2柱の神々が落ち着き無くウロウロしている。眉間にしわを寄せ、悩み続けている彼らは、統治神の間へ入ってきた竜次たち一行に、まだ気づいていない。
「何やら困っておられるようだが、あなた方が天の国を治める神々で間違いないか?」
「!? おまえたちは!?」
神々である割に、2柱はあまりにも落ち着き無くうろたえている。その様子を見かねた晴明が問いかけたところ、兄弟神である2柱は、統治神の間に入ってきた竜次たちにようやく気が付き、一行の姿を見て我が目を疑うほど驚いた。
「そうであったか。七色の光の道が人間界に降りたのは知っておったが、国渡りの儀式で昇天して来たと……」
黒衣を着た文人風の男神は、竜次たち一行が、天の国へやって来た経緯に、驚愕をもって納得した。その隣りで一連の話を耳に入れた、勇壮な風貌の武神などは、まだ信じられないというような顔をしている。
「それと、答えるのが遅れたな。我々兄弟が、天の国を治める神なのかと聞いておったが、その認識で間違いない。私は月読と言う。夜の世界を司る神だ」
「俺は弟の素戔嗚だ。天の国の神将として軍を率いている」
遅くなった自己紹介に続けて、月読と素戔嗚は、何に悩んでこの大理石の広間をウロウロし続けていたのか、そのわけを竜次たち一行に話した。
2柱の統治神が話す内容に、竜次たちは驚愕せざるを得ない。その語った内容の最も重要な部分は、
七色の光の道を利用し、天の国に昇った謎の女は、この世界において、太古からの伝承に登場する精霊夢幻であり、天の国に強い恨みを持っている。
という一文でまとめられる。
一通りの話を聞き終えた竜次たちは、倶楽部『縁』の若ママと昇天した天女の姿を、頭の中で再度重ね合わせ、驚愕している。仙などは驚くと同時に、大昔、連理の都に立ち寄ったとき、精霊夢幻の姿を見た古い記憶を思い出し、
(やっぱり気のせいじゃなく、昔、会ってたんだね。店でカマをかけた時、あの女は、うまくはぐらかしてたけど、そういうことだったのかい)
と、気持ちがスッキリしたらしく、心の中で合点の手を打っていた。
複雑な経緯を全て聞き、咲夜は何かをしばらく考えていたようだが、表情をシリアスなものに変え、
「精霊夢幻がなぜ天の国に恨みを持っているか、私たちはその理由を知っています」
意を決してそう言うと、静と義経が演じてくれた舞、『宵暁縁』の内容を、少し厳しい口調で、月読と素戔嗚に伝える。
2柱の兄弟神は、非常にバツが悪そうな顔で、咲夜の話を聞いていたが、
「確かにあの時、夢幻と宵暁縁に与えた罰は苛烈過ぎた。我々にもその負い目がある」
と、武神らしく釈明することなく、弟の素盞嗚が反省の弁を述べた。