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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第7章 宵の国・平定編

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第295話 大江山倶利伽羅平・春の陣その2

「ふむ。さすがに鬼たちの総本山じゃの。とんでもない結界を張っておるわ」


 宵の国最大の平原、倶利伽羅平(くりからだいら)の北西に軍を進めた昌幸は、妖気漂う大江山麓を眺め、そうつぶやいた。


 大江山はかなりの標高があるため、頂上から尾根にかけてはまだ雪解けが進んでおらず、上から山に白いシロップをかけたような形で、冬のなごり雪がふんだんに残っている。その残雪を遠目から見るに、大江山頂上付近の寒さは(いま)だ厳しいだろう。


 鬼も大きな獣などと同様、厳冬に動けなくなるのだが、標高の低いところには春が来ている。温かい季節へ移行しつつある状況で、鬼の酒呑童子が寒さの残る稜線上部辺りを、わざわざ巣にしているとは考えにくく、恐らく奴の所在は、今、山麓にあるはずだ。


「厳重に張られた結界を破れば、酒呑童子に近づけるのでしょう。ですがそれは、容易なことではなさそうです。見たところ、火水土風、四属性の結界が張り巡らされているようですが、どのように力を加えれば破れるものなのか……」


 昌幸のつぶやきを受け、桜色の陣羽織を着た咲夜が、目に映っている大江山麓の視覚的な情報を分析し、そう進言した。難攻不落、山麓全体を厚く覆う四属性の結界を前にしている各将たちの脳裏に、その言葉が浮かんだが、軍をここに展開させている以上、もうまごついている時間はあまりない。


「そうですな。どう攻めればいいのか分かりませぬが、大江山の前にはびこるオーガたちは、我らが軍に気づいたようです。手をこまねいている暇はありませぬ。御館様、ここは私が震天弓の矢を四属性の結界に向けて撃ち、少しでも傷がつくか試してみましょう。ご命令を」


 与一は、鮮やかな緑色の大弓、震天弓を手に取り、総大将平昌幸に決断を促した。


 迅速果断な昌幸は、ここからが早い。


「よし、動こう。事前に話し合っていた手筈通り、咲夜、竜次、あやめ、仙、晴明、お前たち5人の戦力は、酒呑童子対抗の切り札として温存する。こちらに向かって来ているオーガ軍殲滅の露払いは、与一が放つ震天弓の矢を皮切りにして、私と幸村、それに義経殿が中心となり引き受ける。皆の者、よいな!」

『はっ!』


 連合軍の各将は、昌幸の的確な指示を受けると一致結束し、臨戦態勢を整えた。酒呑童子との一大決戦に臨む、皆の士気は十分だ。戦う顔に変わった各将の覚悟を最終確認した昌幸は、泰然とした心境でオーガ軍を見据え、震天弓を構える与一に、


(いくさ)を始める! 矢を放て!」


 大声で総大将の(れい)を出した! 令を受け、与一は気力体力の全てを賭け矢をつがえると、光の法力で輝く渾身の一矢を放つ!


 甚大な破壊の力を持つ震天弓の矢は、周囲を広く巻き込みながら、超高速で一直線に飛んでいき、大江山麓を覆う厚い妖力壁に直撃した! 莫大なエネルギーの衝撃により、倶利伽羅平(くりからだいら)一帯に轟音が鳴り響く! しかし!


「結界はびくともせぬか……」


 与一の矢が持つ破壊力に巻き込まれ、射撃軌道の直線上にいたオーガの群れは壊滅したものの、直撃を受けた四属性の妖力壁には、かすり傷もついていない。力の限りをこの一矢に込め、撃ち放った与一は、片膝を突いて何とか体勢を保つと、


「御館様! あとは頼みます!」


 総大将平昌幸に、合戦の命運を託した。


「与一! よくやった! ここからは我らに任せておけ! 皆の者! 行くぞ!」

『応!!!』


 大江山に張られた結界はびくともしなかったが、震天弓の矢により道は開けた。昌幸は宝刀ムラマサを抜き、全軍に号令をかけると、7000名の将兵たちの先頭に立ち、最後の大戦(おおいくさ)へ身を投じる!


 ムラマサ、マサムネ、ヒザマル、平家と源家に代々伝わる3振りの宝刀は、古来より縁の国と宵の国の人々を守り、間違いのない方向へと導いてきた。その導きの刃は、昌幸、幸村、義経、3人の優秀な指導者に受け継がれ、今、7000名の精兵に正道を示している。


 決死の覚悟で大戦(おおいくさ)へ身を投じた、昌幸、幸村、義経は、国と皆を導いてきた宝刀を振り抜き、鬼を次々と斬り倒していく! その勇敢な指導者と共に、7000名の精兵たちが身命を賭し、戦い続けた結果、大江山倶利伽羅平にはびこるオーガの大軍は、ついに殲滅された!




 火水土風、四属性の厚い妖力壁に囲われた大江山麓。その付近には、山桜がよく咲いているが、山から漂う妖気の影響を受けているのか、花の色合いがどことなく妖しい。


 昌幸たちの活躍により、倶利伽羅平のオーガ軍が殲滅された(のち)、自分たちの力を温存したまま四属性の妖力壁に近づくことができた、咲夜、竜次、あやめ、仙、晴明の5将は、本軍からの分隊である300名の精鋭を引き連れ、どうしたものかと今考えている。


「まあ何にしても、ここからは本気の姿になっておいた方がよさそうだね」


 山麓の妖力壁を見上げ、佇んでいた仙は、そう言うと、高めた霊力を体に行き渡らせ、九つの尾を生やした九尾の狐本来の姿へ変身した。顔と体は人の形をベースにしているものの、目が黄金色に変化し、変身前とは比較にならないほどの霊力を、オーラとしてその身から放っている。


 仙は、その全てを見透かす瞳で、鉄壁のように広がる四属性の結界を眺めていたが、


「ん? ああ、そういうことかい」


 すぐにほころびを見抜いたらしく、皆を自分の周りに呼び寄せた。


「どうした? 何か気づくところがあったのか?」

「そうだよ。気づいてみたら簡単なことさ。晴明、あんたも分かるだろう。あっちをじっと見てみな」


 仙はそう言うと、向って左側、火属性の結界が張られている方向を指し示す。ヒントを貰った晴明は、赤色の妖力壁に近づき、しばらく調べたところ、あることに気が付き、納得した様子でうなずいていた。


「なるほど。火属性の妖力壁だけ幾らか弱いな」

「そうだろ? このくらいの壁なら、咲夜ちゃんとあんた、それに私の力を合わせれば、破れないこともないだろう。やってみるかい?」


 侵入口を作る方法があるなら、やらない選択肢はない。九尾の狐と陰陽師、2人のやり取りを聞いていた咲夜は、


「3人がかりでやってみましょう」


 と、流れに同意した(のち)、仙と晴明、2人と呼吸を合わせて水の法術を撃ち放ち、火属性の妖力壁を相殺した! 壁を破ったことで、咲夜、仙、晴明は、ある程度の法力と霊力を消耗したが、3人の術者たちは戦う力を、まだ十分残している。


 鬼との雌雄を決する最後の道は開かれた。あとは自らの力を信じ、前へ進むのみ。

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