第29話 異世界のテクノロジー
連理の都の周囲には、4つの赤い大曼荼羅が東西南北に1つずつ作られている。4つのいずれも都から外れた場所にあり、それらは、今、竜次たちがいる青い大曼荼羅に向け、地脈を通して超速子をエネルギーとして送り続けている。つまり、赤い大曼荼羅は周囲の自然界にある力を超速子に変換して集め、青い大曼荼羅はその莫大な超速子のエネルギーを受け取り、連理の都全体に放出しているのだ。
「それが大曼荼羅と超速子の関係を利用した、一連の施設の仕組みじゃ。都内の家々では、超速子を使って様々な道具を動かすために、緑色の曼荼羅が描かれた護符が貼られておる。竜次よ、お主の家にも貼ってあったはずじゃ」
「ああ、そういえば確かに。茶を沸かす時に、電磁調理器のような物があったんで、コンセントにプラグがつながってないのに、何で動くんだろうと不思議に思ってました。家の大黒柱に貼ってある緑色の曼荼羅がそうだったんですね」
「そういうことじゃ。その家にある曼荼羅が、お主が言うコンセントの役割をして、超速子の力を調整しておるのじゃ」
広く静かに輝く青の大曼荼羅を眺めながら、守綱から説明を聞いた竜次は、法力の発展により生み出された、超速子というテクノロジーに、感服しきりである。
(科学だけに絞ってみても、日本より進んでない面もあるが、反対に遥かに進んでいる面もある。アカツキノタイラは全く不思議で侮れない世界だ)
例え、死ぬまでこの異世界にいたとしても、退屈することはなさそうだ。竜次は、丘の上から連理の都の全容と青く澄み渡った空に眼差しを向け、これからの異世界生活に期待を込めた笑みを浮かべた。
数日間の休暇が終わった後、竜次と守綱に、大宮殿への出頭命令が伝えられた。咲夜の手厚い看護の甲斐があり、幸村の手傷が完治したと、その伝令の中で聞いている。
(そうか、若殿が……まずよかった)
(やはり咲夜姫だな。姫の法力は凄いもんだ)
守綱と竜次が幸村の回復に関してそれぞれ思っているが、2人の考えている内容には、やや異なった部分がある。守綱は忠義の人らしく、若殿の回復をそのまま喜んでいるのだが、竜次は、浄土山からの帰り、幸村の手傷をどれほどか見立てており、
(これは全治に半月から一ヶ月はかかるかもしれんな)
と、冷静に予測をしていた。実際、日本の医療で治すと仮定して、それほどの傷を幸村は負っていた。かすり傷にしては深手寄りだったのだ。それが数日ですっかり完治したことに、はっきり言えば、いい年のおっさんである竜次ですら、仰天してしまった。咲夜が持つ治癒の法力は、それほどのものというわけだ。異世界と日本の間の、カルチャーショックと言えばいいだろうか。