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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第7章 宵の国・平定編

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第287話 大江山倶利伽羅平・秋の陣その4

 仙は茨木童子とタイマン勝負を続けていたが、(おとり)の役目を果たし終わった以上、もうここで粘る必要はない。オーガや操られた宵の国の兵といった、自分に従う戦力を、茨木童子は妖気で呼び寄せている最中だが、仙はそれを相手にせず鼻で笑うと、天神足の法術を使い、倶利伽羅平(くりからだいら)に突撃中の味方の軍に合流しようと、東へ向けて高速移動を始めた。


「逃さないよ!」


 因縁の相手を逃すまいと、茨木童子は妖術を使い一時的に移動力を高め、天神足で平原を滑り飛ぶように進む仙を追っていく。だが、ここにおいてもこの女鬼は、浅慮により墓穴を掘った。


 明星の町から見て、東の森林から縁の国の軍は現れ、こちらに全速力で向かってきている。その将兵の集団の中からただ一人飛び出し、仙の危地に天神足の高速移動でいち早く駆けつけた者がいる! 九尾の女狐と(いにしえ)からの付き合いがある陰陽師晴明だ!


「珍しく手こずっておるではないか! 仙!」

「昔のようにはいかなくてね! いいところに来てくれたよ! 晴明!」


 戦場において信頼の微笑みを互いに交わすと、黒の狩衣を着た晴明は、右腕に傷を負った仙をかばうように茨木童子の前へ立ちはだかり、全ての攻撃に対応できる万全の構えを作った。


(こいつ……只者じゃないわね! こうなれば!)


 強者は強者であるほど、相手の力を正確に測れるものだ。仙の危地に颯爽(さっそう)と現れた晴明を前にして、茨木童子は最強の陰陽師が漂わせる法力を鋭敏に感じ取り、一瞬たじろいだが、覚悟を決め、自身が持つ妖力を最大まで高めると、


「鬼氷衝!!」


 巨岩ほどの氷塊を幾つも作り出し、前方の晴明と仙へ向けて一つ残らず撃ち放った! 急激な加速度で飛んでくる巨大な氷塊を、一つでも身に受ければひとたまりもない! だがしかし……!


「…………!」

「霊土壁!」


 晴明と仙は絶妙なコンビネーションで呼吸を合わせ、重厚な土の法術壁を作り出し、鬼氷衝の妖術攻撃を完全に防いだ!


「どういうことなの!? これが通じないなんて!?」


 茨木童子は眼前で起こったことが信じられず、愕然としているが、相手は恐らくアカツキノタイラ最強の術師コンビである。相手が悪すぎたと言えよう。


 仙が先程言った通り形勢は逆転した。一気に窮地へ(おちい)った茨木童子は、妖術で移動力を高めると、自分の手下であるオーガたちと合流するため、明星の町の方向へ退き始めたが、


「逃がしません!」


 更なる援軍として戦いの場に駆けつけた、桜色の陣羽織を着た銀髪姫の法術により、その退路を断たれた! 咲夜は四象の杖を素早く構えると、茨木童子の退却方向に炎の法術壁を作り出し、鬼たちの副首領である女鬼から移動の自由を奪った!


 咲夜、仙、晴明、3人の術師の法力と霊力を結集させた法術攻撃には、凶悪な妖力を誇る茨木童子といえども太刀打ちできず、その場で防戦一方に追い込まれていく。大窮地に焦る女鬼が、ただでさえ雁字搦(がんじがら)めとなり、戦いようがなくなっているそこに!


「グウッ!?」


 救出した静をあやめに任せた竜次が、ダメ押しの援軍としてこの場へ駆けつけた! 茨木童子の左後ろから一気に距離を詰めた竜次は、もはや隙だらけとなっている女鬼にドウジギリ・改を振り下ろし、その左腕を斬り飛ばす!


「よし! 竜次、どいてな! トドメは私が刺す!」


 仙の呼びかけに応じ、竜次はサイドステップで即座にその場から飛び退いた。全く予期しない激痛を受け、茨木童子は完全に動きが止まっている。仙は、絶体絶命に迫られ、覚悟を決めた女鬼の目を静かに見据えると、


「双鷹刃!」


 莫大な霊力により作り出した風の鷹を2匹放ち、茨木童子の胴を真っ二つに切り裂かせ、因縁の相手にとどめを刺した!




 太古の昔から、茨木童子は鬼たちの副首領として君臨し、強大な妖力で数多(あまた)の人々を苦しめてきたが、その命も尽きかけようとしている。あどけない顔に似合わず、今までのどの鬼よりも凶悪だったこの女鬼は、死に向けて意識が薄れかける中、何かを思ったのか、今わの際に重要な一言をつぶやく。


「あんたたちは思ってたより強かったよ……。ふふっ、でもね……。そのくらいの力では、あの方には勝てない」


 意味深な言葉を残し、不敵に力なく笑った後、茨木童子は目をつむり、静かに事切れた。


 手強かった女鬼の亡骸が、黄色の大宝珠に変化するや否や、あたりに立ち込めていた甚大な妖気は、(またた)く間に晴れていく! 茨木童子の妖術により作り出された大蜘蛛も、術者の死と同時に全て消え去り、あやかしに操られていた宵の国の兵たちは、皆、正気を取り戻した!


「総大将は討ち取った! 私もムラマサを振るい、残ったオーガどもを斬る! 皆の者! 勝利までもう少しだ!」

『応!!!』


 平家に代々伝わる宝刀ムラマサを鞘から抜き、天へ向けて高くかかげた頭領昌幸は、力強く将兵たちを鼓舞する! 総大将を討ち取られ、統制を失ったオーガ軍は、もはや烏合の衆でしかない。士気高揚した軍の先頭に立つ昌幸に続き、幸村もマサムネの力を全て引き出し、精兵と共にオーガを次々と斬り倒して行く!


 各将兵たちの活躍により、茨木童子が率いていたオーガ軍は全滅し、明星の町は鬼の支配から完全に解放された!


「民たちよ、明星の町を守り切れず、すまなかった! だが、私は帰ってきた! もう鬼たちに二度と負けることはない! 源家の当主の証である、この宝刀ヒザマルにかけて誓おう!」


 大激戦に勝利し帰ってきた、勇敢な剣豪君主の宣言を受け、明星の町の民たちは、今、大歓声を上げ、喜びに打ち震えている。


 民のためにいつでも命を懸ける源義経は、天地神明に誓って、何があっても今日のこの宣言を、破ることはないだろう。

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