第28話 青の大曼荼羅
竜次が褒美として休暇を貰っているということは、直属の上司である守綱も、同様な褒美を貰っているということだ。一番の愛刀コテツを振るい、獅子奮迅の武功を守綱は浄土山で立てていたから、それは当然のことだろう。
「おう! よく来た。竜次よ、お主が訪ねてくれるとは思わなかったわい。ここまで迷わなかったか?」
「少しだけ迷いましたが、人に聞いてすぐ分かりました。俺も都の土地勘がついてきたようです」
侍大将である守綱は、総二階で広い木造の邸宅に住んでいる。庭も広く、桜や柿の木、ツツジや紫陽花などの植え込みがあり、季節ごとの花が咲き、眺めて楽しめるようになっていた。良い庭師が手入れしているのだろう。庭木と植え込み共々、丁寧に刈り込まれている。
竜次が守綱の所を訪れたのは、どんな邸宅に住んでいるのか気になったのもあるが、
「連理の都を案内してくれませんか? だいぶ慣れてはきましたが、まだまだ知らない場所が多いんです。都のことをもっとよく知りたいし、見ておきたい」
縁の国で彼は、足軽大将という立派な役職を持っている。国の首都である都のことを知りたいと思うのも当然であるし、絶対に必要とも言える。
「良い心がけじゃ。正直な所、わしも休暇を持て余しておってな。ちょっと待っておれ。家人に断りを言っておこう。いや待てよ……竜次、茶ぐらい飲んでから行くか?」
「いえ、そう疲れてもいませんし、茶はまた頂きましょう。ご家人には宜しくお伝えください。守綱さんの、立派な家が見られただけで十分です」
正直に裏表なく物事を言い過ぎるのが、竜次の長所でもあり、また短所にもなるのだが、守綱とは馬がよく合う。一切、飾り気やてらいがないそうした言葉を受け、
(全く竜次らしいのう)
と、上司である守綱は好意的に考えると、一つ声を出して笑った。
長い年月を経て作られ、今も発展している広大な連理の都は、全て平坦な土地ではなく、小高い丘や林、川なども含んでいる。丘と林に関して言うと、自然に存在するものを利用した場合もあるが、盛り土や植林で、いくらか人工的に作られたものも多い。今、守綱が竜次を連れて案内している丘は、自然の地形に少しばかり手を加え、非常に重要な施設として利用しているものだ。
「へぇ~!! こりゃすごい! いや、これが見たかったんですよ。この大曼荼羅が」
「ふふふ。凄かろう? この丘は、都の要とも言える。今、お主が見ている青の大曼荼羅から、超速子が力として送られておるからの。一般の都の者では、ここにおいそれと来られぬ」
野球が思い切りできそうなくらいの広さがある丘の上の平地に、ほぼそれと同じ大きさの曼荼羅が青く静かに輝いている。言うなれば、法力に関連したテクノロジーが生み出した発電所と同等なもので、竜次がアカツキノタイラで一番不思議に思い、この目で見るのを望んでいた施設でもある。