第27話 民に愛され想う平一族
都の人々は幸村の無事な姿を見て、ある者は胸を撫で下ろし、ある者は大声を出して若殿の帰還を祝福した。縁の国の支配者である平一族が、民に愛されていることがそれらの様子からよく分かる。
(若殿はお館様が話していた通り、知勇兼備の強者で、平家の大切な跡取りだ。俺たちがしっかり守っていれば、間違いないだろう)
手傷の痛みを表情に出さず、連理の都の民に応える幸村の立派な姿を見守りながら、竜次はそう心に決めた。
都の大路を通り抜け、昼日中に映える朱色の大宮殿に帰還すると、今や遅しと待ち続けていた昌幸と桔梗が、玄関口まで出迎えに来ている。2人とも幸村を始めとした皆の無事を確認し、深い安堵をようやく得たようだ。
「父上、母上、ただいま帰りました。賊とブルーオーガの討伐に手こずり、兵を失ってしまいました。申し訳ございません」
「うむ、幸村よく戻った。兵に犠牲が出たのは、私の予測が甘かったせいもある。お前ばかりの責任ではない。戦で命を散らしてしまった兵の家族には、手厚い補償をしよう。幸村、お前は見ると手傷を負っておる。まずゆっくり休んで治せ」
戦場においても帰還時の道中においても、気丈に明るく振る舞っていたが、幸村は父昌幸の前で、初めて沈痛な顔を見せている。心の内では、敵を侮っていたことによる見込み違いで、兵に命を失わせてしまったことを、深く悔いていたのだ。歴戦の将であり、縁の国の頭領である昌幸は、その幸村の心を知らぬはずはない。大切な長男の心をよく酌み取りつつ無事をねぎらった、国の最高責任者として、最善の言葉が自然に出てきている。
(お館様らしい。若殿もお優しい)
傍に控え、主君のやり取りを聞いていた守綱は、援軍が間に合ってよかったと心底から思い、少しうつむいて顔を隠しながら、深い安堵の微笑みを浮かべた。
幸村はブルーオーガから受けた手傷を治すため、数日間の加療が必要となった。父昌幸の主命でもある。休んで傷を治すのも、跡継ぎとしてのよい経験になるだろう。兄の看護を買って出たのは咲夜である。彼女の法力は、傷の治癒にも素晴らしく長けている。兄に早くよくなってほしいと願うのは、妹の心情であり、昌幸と桔梗も、元よりそう命じるつもりであった。
「褒美として休暇をもらったわけだが、どうしたもんかな? 遊ぶ金は幾らかあるし、都には遊び場も多いようだが……」
自宅前の小川を眺めながら、そう独り言をつぶやいているのは竜次だ。日本の工場で働いていた時も、盆や正月などでまとまった休暇を取れることがあったが、戦働きの褒美として、数日間の自由時間を貰うとは思っていなかったので、何をしたものかと、少々考えあぐねているようだ。




