第265話 腹心の言葉
アーサー王は、縁の国の頭領、平昌幸と同じく果断な指導者で、こうと決めた後の動きが早い。戦を起こす旨を、この場にいる皆に告げるや否や、あらかじめ用意していた首都周辺の地図とエディンバラ城内図を、一枚ずつ執務室の円卓に、音を立たせて広げた。
城攻めに必要な重要情報が、円卓の上に広げられた地図と場内図には描かれており、将軍ランスロットと、咲夜を始めとする縁の国5人の将が、それら2枚の周りに集まるのを見計らった後、アーサー王は早速、軍議を始める。
「まず地図を見てくれ。我が国の首都エディンバラは、我々が今、拠点にしている第2の都市シャーウッドから見て、遠く東に位置する。先の熊童子との戦いがあったソールズベリー平原を通り、進軍することになるだろう。斥候兵を先行させ、敵に気づかれぬよう慎重に軍を進めなければならない」
王は一旦言葉を切り、首都周辺地図の横に広げられた、エディンバラ城内図を指し示した。
「次は城内図だ。首都エディンバラの都市構成にまず触れておくが、東西南北、防壁に広く囲まれた城下町を有しており、エディンバラ城はその防壁内の南側にある。エディンバラ城は、攻めるに難い堅城なのだが、城の裏手に付けられている勝手口は構造上防備が薄くなっている。しかもだ!」
アーサー王は言葉に力を込め、我が右腕として全幅の信頼を置く将軍ランスロットに目を向けると、
「シャーウッドから最近脱出して来たある兵士の報告によると、虎熊童子率いるオーガ軍は、勝手口の手薄さに気づいておらず、見張りのオーガも数匹しかつけていない様子だと言う。これは確度が非常に高い情報だ。この点を考え、エディンバラ城をどう攻めるか、作戦を立てたい」
最新情報を含めた状況説明を終え、王は説明を聞いていた将たちに意見を求めた。ただ、将たちに、とは言ったものの、アーサー王が今一番聞きたいのは、腹心であるランスロットの考えだろう。
「我が君、私は確度の高い情報を頼りに、今見えているエディンバラ城の弱点を突きたいと思います。防壁内南側にある城の、裏手から勝手口に忍び込んだ上で撹乱し、東西北の大門を開けていく作戦はどうでしょう? 3方向の大門が開けば、城内に攻め込むのは段違いに容易となります」
アーサー王が自分の発言を求めているのを悟り、将軍ランスロットは冷静に考えを披露した。全幅の信頼を置く将軍が提案した作戦は、正に、暁の国最高指導者の意を得ており、
「ランスロット、やはりお前もそう考えるか。よし! その策で行こう!」
碧眼に静かな輝きを湛え、アーサー王は、エディンバラ城攻略に向けた戦法を決めた。




