第263話 格段に強く
前鬼と後鬼は腕を斬り飛ばされたまま平然と立っている。きれいに斬られた肩口からは、全く出血もなく、痛がりもしていない。
「不思議そうな顔をせずともよい。稽古前に言ったじゃろ? わしらは幻体の姿で召喚されたのじゃ。前鬼と後鬼の本体は腕を失っておらん。幻体がいくら傷つこうとも、血も骨も出んよ」
実戦稽古の終了を告げた役小角は、前鬼と後鬼の状態をそう解説すると、竜次たち3人の面魂と向き合った。白ひげの好々爺は、修業を終え、いい顔になった彼ら彼女らを一通り見回し、
「お前さんたちは、力を身に付けたいと言っておったな? それを手に入れたかどうかは、前鬼と後鬼と戦ったお前さんたちが一番よく分かっておるはずじゃ。戦う以前より強くなった自分たちの心身に気づかぬか?」
竜次、咲夜、あやめに、気づきへ繋がるきっかけの言葉を与える。3人は、役小角の言葉が何を意味しているのか、少しの間考えた後、自身の体と手を、それぞれじっくり見始めた。
手のひらを眺め、自分たちの心身が持つ今の力を評価できた3人は、激しい実戦稽古の前より、それぞれの実力が大きく上がっていることに気づく。
「これは……自分で見て分かります。私たちは、いつの間にこのような力を?」
「いつの間にと言ってもな。それは稽古をしたからじゃろ。前鬼と後鬼は幻体の姿とはいえ、お前さんたちにとっては非常に手強い相手じゃったな。どちらも黒曜石の玉の力を使って、完全ではないにしても、強さを持った体を形作っておったわけじゃ。お前さんたちは、前鬼と後鬼、2体の式神との戦いを通して、黒曜石の玉が持つ霊力を、自分たちの心身に取り入れていたというわけじゃな」
咲夜の問いかけに、役小角は飄々とした調子で答えると、自分に従う式神である前鬼と後鬼に手を振り、前鬼は竜次の前に、後鬼はあやめの前へ来るよう命じた。
「さてと。これで大方の用件は済ませたことになるが。最後に餞別をやろう。竜次とあやめは刀を持ったまま、前鬼と後鬼に両腕を出しなさい。咲夜は、わしの前に両腕を出してみなさい」
白ひげの好々爺に促され、竜次、咲夜、あやめは、言われた通り両腕を前に出す。すると、前鬼と後鬼は、斬り飛ばされずに残った手を竜次とあやめの両腕にかざし、白色の静かな光を2人の腕と刀に注いでいった。役小角も同様に、咲夜の両腕に手のひらをかざし、静かな温かい光を入念に注いでいく。
「湧き上がるような熱い力を感じるが、なんだこれは?」
「俺たちの発勁の技に、お前たちは随分手こずってただろう? その技の力を、竜次とあやめ、お前たち2人に授けてやったのさ。発勁の爆発力をその刀に込めて戦えば、ホワイトオーガと言ったか? 再生能力があるそいつも倒しやすくなるぜ」
更なる力を受け取り若干戸惑っている竜次を見て、前鬼は笑いながら、何をしたのかを解説した。
竜次とあやめが前鬼と後鬼から授けられた発勁の技は、自身が持つ気の力を刀に込め、斬撃に爆発力を伴わせるものであり、強力な自己再生能力を有するホワイトオーガの体を、粉砕するのに特効を持つ。
つまり、暁の国の首都エディンバラ奪還へ向け、暁の国縁の国連合軍は、非常に有効な戦力アップに成功したのだ。




