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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第6章 暁の国・平定編(後編)

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260/321

第260話 前鬼(幻体)/後鬼(幻体)・その1

 準備運動を終え、体が十分に温まってきた竜次、咲夜、あやめの3人は、この古代遺跡中央部で悠久の時を超え、ずっしりとした存在感を漂わせる石柱群を、一時(いっとき)の間だけ、ぼんやりと眺めた。古代に造られた霊的な力を持つ石柱群を見つめ、余分な緊張が取れた彼ら彼女らは、今から待ち受ける激しい実戦稽古に臨むため、遺跡中央部に広がりを見せる、低草が茂る野原に進み出る。


「やる用意はできたか? 言っとくが、俺たちは強いぞ?」

「幻体の姿だから、完全な力は出せないけどね。君たちもなかなか強いようだけど、私たちと戦って良い稽古になるかな?」


 前鬼と後鬼の2匹は、ニヤリと不敵な笑いを浮かべながら竜次たち3人に向けて、警告じみたことを言ってきた。体が大きく筋骨隆々な両腕から、とてつもない破壊の力を感じさせる前鬼と、小柄ながら引き締まった体躯で、いかにも動きが素早そうな後鬼は、これから戦う竜次たちを、別に侮っているわけではない。


「言うだけのことはあるってことか……。前鬼と後鬼、どっちの体からも、凄え量の霊力が流れ出てやがる!」

「100%の力を発揮できないとは言っていますが、幻体の姿でもおびただしい霊力を持っていますね。私たちが戦ってきた中で最強の敵、星熊童子の戦闘力を、前鬼と後鬼それぞれが凌いでいそうです」

「油断をする余裕などありませんね」


 竜次、咲夜、あやめの強さを正確に見定め、自分たちの力と比較した上で、前鬼と後鬼は、気を抜くとそこで終わるぞ、と警告しているのだ。金熊童子、星熊童子、熊童子といった、強敵との戦いをくぐり抜けてきた3人は、前鬼と後鬼が持つ実力を、戦う前からしっかりと感じ取っており、彼らの言葉は全くブラフでないことを、よく理解している。


「稽古の意欲が高まってきたようじゃの。最初に重要事項を言っておくか。さっき言ったことと重なるが、前鬼と後鬼はどちらも幻体の姿じゃ。つまり、写し身のような形でこの場に現れておる。写し身じゃから腕を斬り飛ばそうが、首を刎ねようが、幻体の力が失われるだけで、どちらも死なんというわけじゃ。どちらかといえば、生身のお前さんたちの方が危ないの。遠慮せず、目一杯の力で戦うがよい」


 実戦稽古を始める直前になって、役小角は非常に重要な注意事項を説明した。いずれにしろ、竜次たち3人にとって、前鬼と後鬼は手を抜ける相手ではなく、命がけの稽古になる。


「それでは、いつ始めてもよいぞ」


 役小角のふわっとした開始の合図を聞いた咲夜は、四象の杖を素早く持ち直すと、


「玄武陣!」


 自分たちの防御力を高める守護結界を早速張り、これから来るであろう未知数の攻撃に対し、万全の備えを施した!

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