第257話 ある御方
ホワイトオーガ対策を話し合い、採るべき方針が定まった竜次たちは、砦兼役所から出た後、シャーウッドでの我が家として使わせてもらっている、アーサー王が手配してくれたいつもの宿屋で旅の荷を解き、明日からの行動へ向け一晩ぐっすり休んだ。
翌朝、宿屋で身支度を十分整えた竜次たち5人は、シャーウッドの南にある大門から町を出ると、人目がない森林近くの少し開けた野原に向かった。咲夜はその野原で、熊童子から手に入れた黒鏡面の手鏡を無限の朱袋から取り出すと、自身の法力を高めて手鏡を空間にかざし、早速、光の門を発生させる。
「善は急げです。皆で古代遺跡に向かいましょう」
晴明はまだ、4つ目の国鎮めの銀杯を手に入れた古代遺跡で、何をするのかハッキリとは言っていないが、光の門を通った先に何かしらの課題が待ち受けているのには違いない。咲夜を先頭に、縁の国5人の将は気を引き締めた表情で、まばゆく輝く門を潜って行った。
光の門を通り、石柱群が雄大な広がりを見せる古代遺跡に着いた竜次たち5人は、古代ロマンの感慨に浸るのもそこそこにして、遺跡中央部、黒曜石の玉が鎮座する比較的小さな石柱のところへ真っ直ぐ向かった。
「うむ、間違いない。この黒曜石の玉は、なかなかの霊力を秘めておる。竜次殿とあやめさんの力を引き出すのに使った玉よりは、相当大きな力を持っておるな」
晴明は目的地に着くと、まず石柱に置かれている黒曜石の玉に手をかけ、その大きさと持つ力を確かめている。思った通りの物で納得が行ったのだろう。少しの間、太陽光を受け黒く輝く玉を眺め、一人でうなずいていたが、
「今から黒曜石の玉の力を借り、ある方を呼び出す。ただし、その方は呼び出された後、我々に何をせよとおっしゃるのか分からぬ。だが、力をつけるには必要なことだ。準備はよいか?」
と、竜次、咲夜、あやめ、仙の4人それぞれに覚悟を求めた。晴明は黒曜石の玉の霊力を用いて、何者かを召喚するということを言っているのだろうが、アカツキノタイラ随一の力を持つ陰陽師が、その何者かに対し「ある方」と敬称をつけている。何者にも心からはへりくだらない晴明にとって、それは異例中の異例のことであった。
「晴明さんがそんなに人を敬ってるのは、珍しすぎて気になるなあ。でも、どの道エディンバラを奪還するためには、俺たちが力をつけるしかない。その人を呼び出して下さい。何をするにしても、心構えはできています」
さっぱりとした竜次の決意に、咲夜、あやめ、仙も同調している。
晴明は、彼ら彼女らの同意が得られたのを確認すると、右手首に陰陽師の法力を高める月光の腕輪を着け、静かな存在感を漂わせる黒曜石の玉の前に立ち、「ある方」を召喚するため、長い真言を唱え始めた。




