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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第6章 暁の国・平定編(後編)

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247/321

第247話 姫として主(あるじ)として

 妙な痴話喧嘩も終わり、竜次から埋め合わせとしてデートの約束を取り付けた仙は、ようやく不機嫌が治ったらしく、幾らかキツかった表情がいつもの柔らかいものに戻っている。


「よしよし。忘れないようにするんだよ、竜次。それじゃみんな、縮地でシャーウッドに行くよ。私の周りに集まりな」

(いったい何の話をしてたのかしら? 気になるわね……)


 想い人の竜次のことになると、滅法勘が鋭い咲夜である。仙と竜次、今のところ仙が一方的にアタックしているが、この成熟した男女はほとんど恋仲に近いと咲夜には見えている。そんな二人が耳打ちで他に聞こえないよう話し合っていたのだから、竜次が好きな咲夜としては釈然とするわけがなかった。


 そうは言うものの、咲夜は縁の国を治める平一族の姫で、将たちの(あるじ)筋でもある。想い人の竜次に対する感情をそうそう表に出すわけにもいかない。銀髪姫は言いたいことを抑え、みんなと一緒に仙の周りに黙って集まり、縮地の法術で発生した青い球体に包まれると、シャーウッドへ瞬間移動した。


 国の姫として一応の振る舞いを保つのも、咲夜にとって大変なようである。




 辺りを山林が覆うシャーウッドの町近くの平地に現れた、竜次たち一行であったが、一つそこで息を吸い、


「うむ、随分呼吸がしやすくなったな。4回目の国鎮めの儀式は、暁の国の空気にまで影響を及ぼしたようだな」


 みんなが一様に感じたことを、晴明がまとめた形で言葉にした。瘴気の淀みが薄く立ち込め、何となく息がしづらかった暁の国の空気が、明らかに変わっている。それでも、縁の国の空気と比べ、まだ薄っすらと瘴気が漂っているような肌感覚があるが、人間が活動しやすい大気環境に戻ってきている。


 ソールズベリーの合戦で呼吸がしづらい分、幾らかの不利を(こうむ)りながら竜次たち5人の将は戦っていた。次からの戦いではその不利が緩和され、暁の国縁の国連合軍は全体的な薄い戦力ダウンを回避できるだろう。




 門番に挨拶した後、竜次たち一行は都市南側の大門を潜りシャーウッドに入り、空気が変わった町の様子をしばし眺めている。


 三方を山林のグラデーション豊かな紅葉に囲まれた、盆地の町に住む民たちは、皆、気力十分で、それぞれの活動に励んでいた。基幹産業である林業、製材、木工、建築に(いそ)しむ職人たちの声が、そこかしこで威勢よく聞こえてくる。また、それらの職人たちに美味い食事を提供する各種の飯屋からも、良い匂いが漂ってきている。


「瘴気が薄くなったことで、町の雰囲気が良くなっていますね。よかった」


 シャーウッドの民たちに活力が戻ったのは、咲夜が国鎮めの儀式で懸命に祈ったからなのだが、銀髪の姫は微笑みながら町の様子を見て、決して自身を前に出さず控えめに喜んでいた。


 指導者として慎み深い平一族の精神が咲夜の顔には表れている。竜次は彼女の気品と態度に美しさを見出し、同時に自然な形で敬服していた。

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