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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第6章 暁の国・平定編(後編)

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244/321

第244話 複雑な過去

 縁の国忍者衆の長、小太郎の薫陶を受け、あやめは厳しい修行を積み重ねた結果、みるみるうちに各種の忍者技能を習得していった。あやめの忍者としての天才性は、小太郎が見抜いた通りだったのだろう。


 修行の見極めを貰い、忍者衆の長がかけた期待に見事応えることができたあやめは、その後、縁の国平家に仕える忍者武将として、若年ながら各種の任務を(そつ)なくこなしていき、家臣団の中でも頭角を現してきた。


「御館様の下で働くようになり、オーガなどとの(いくさ)に参戦することも増えていきました。私は父を殺したオーガが憎く、御館様から授けられたコギツネマルを使い、戦の(たび)に鬼を斬ってきました」

「なるほど、そうだろうな。俺も親がオーガに殺されたなら、同じように思うはずだ。よく分かるよ。だけど……」


 シリアスな表情で自分の複雑な過去を聞いてくれている竜次が、何を疑問に思ったのか気になったらしく、


「だけど?」


 と、あやめは若干だけ心を乱しかけながら、聞き返した。


「今のあやめさんはとても優しい顔をしているよ。星熊童子を斬ったときでも俺は思ったよ。あの青い女鬼の綺麗な首に成仏の祈りを捧げていたあやめさんは、まるで菩薩様のようだったなってね」


 自分の言葉に照れているのだろう。竜次は頭をかきながら微笑みを浮かべている。だが、正直なこの男が口にしてくれた言葉は、あやめの心を大きく確かに打った。未だに薄く霧がかかった晴れない視界の中で、苦労して進んでいる自分に、手を差し伸べて救ってくれたような、そんな温かい感覚を覚えた彼女は、


「あのとき、そう見えたのですか? 竜次さん?」

「ああそうさ、そうとしか俺には見えなかった」


 不思議そうな顔でもう一度竜次に聞き返し、また正直な返しを受けている。真剣な表情で辛さを含む過去を話し続けていたあやめであったが、そこで初めて微笑を見せ、


「あのとき、私は星熊童子を斬りました。あの女鬼は、他の者への情が全くない非道過ぎる鬼でした。ですが、私にはそれがなぜか哀れに見えたのです。自然にというか、無意識的にというか、自分でも気づいたら、星熊童子の成仏を斬った首に祈っていました」


 自分の心を整理しながら、仁王島で星熊童子の首を斬った後、なぜ静かな祈りを捧げたのか、理由を答えた。


 竜次は、甘塩がまんべんなく振りかけられ後を引く味わいのせんべいを食べ、湯呑の番茶を飲んで一服したのち、


「あやめさんは、お父さんを殺した鬼を憎んでいるとは思う。でも、今のあやめさんの優しさを見ると、憎しみだけで鬼を斬り始めた頃より、心の何かが変わってきたんだろうね」


 あやめの心奥を再び打つような真正直さで、彼女がここまで打ち明けてくれた話の感想を伝えている。

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