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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第6章 暁の国・平定編(後編)

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第238話 侘び寂び

 青いつば広の帽子に赤珊瑚の髪飾りをつけ、上機嫌で小川の橋を歩いて渡ってくる細腰の麗人がいる。朝から牡丹が華やかに咲いたような笑顔を振りまいている仙であるが、なぜ彼女はここまで上機嫌なのかと言うと、


(今日も竜次と一緒に居れる~♪ 嬉しいな~♪)


 そういうわけである。仙は暁の国へ救援に向かった他の4人の将と同様、頭領昌幸から、主命を一区切りまで進めた褒美として、数日間の休暇を与えられた。その休みを毎日利用し、自宅からほど近い所にある好きな竜次の家へ、入り浸っているというわけだ。咲夜がこの嬉々とした仙の顔を見たらどうなってしまうか、あまり想像したくないものである。


 嬉しそうに通り過ぎる仙の笑顔は、すれ違う皆を、一人の例外もなく振り返らせてしまうほど魅力的で、


(何でそんなに楽しそうなんだろう?)


 という疑問を人々は頭に浮かべつつ、九尾の女狐の美しさと愛嬌を二度見していた。そんな目線を露ほども気にせず、天真爛漫な仙は、竜次が住む平屋の前までやって来たが、玄関の戸を開けようとして、その楽しげな表情は、途端に落胆した顔に変わってしまった。開けようと手をかけた木戸には、


(幸村様に呼ばれたので、今日は大宮殿に行ってます。ごめんよ、仙さん)


 と、仙の来訪を見越した張り紙が貼られている。簡潔に謝ってあるその張り紙を読んだ、仙のガッカリ感は尋常でなく、


「そりゃないよ~、竜次!」


 天を仰いで大霊獣らしからぬ嘆き声を、人目もはばからず叫ぶほどであった。




 朱色の大宮殿の敷地は広く、本殿周囲に面する外庭の他に中庭が造られている。8畳の広さがある幸村の私室は、その広さがある中庭の風景を窓から望むことができ、秋が深まってきた現在は、鯉が飼われている池周りに立つ数本の楓の紅葉が素晴らしい。そうした情緒の豊かさを醸し出す秋の風景は、


(これはいい眺めだ)


 と、座布団の上であぐらをかいている竜次の目を楽しませ、同時に彼の心を和ませていた。


「良いであろう。私の部屋からは、春夏秋冬、季節の移ろいが毎年楽しめてな。幼少の頃から、この丸窓を通した景色を眺めておるが、飽きることなくこの歳になってしまった」


 そうユーモアを交えながら、向かい合って座っている幸村が屈託のない笑顔を浮かべ、趣き深い秋景色を目に映し、心奪われている竜次に話しかけてきた。縁の国の跡継ぎであるこの若殿は、若年ながら自然の風景が持つ侘び寂びをよく分かっており、それを楽しみながら感じ取る教養も、しっかりと身に付けているようだ。


(大したもんだ幸村様は)


 幸村の自然を感覚的に捉えるレベルが高い言葉に笑顔を返しつつ、竜次は黒楽茶碗に程よい熱さで注がれた緑茶を頂きながら、幸村の素養をそう評価していた。

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