第230話 パワースポット
多くの石柱が円形状に広く配置されているとはいえ、古代遺跡の面積は限りがあり、3人が手分けすれば探索できないこともない。
「じゃあ、咲夜姫、晴明さん、3方向に分かれて遺跡を調べてみますか。俺は中央部辺りを見て回ります」
「そうですね、そうしましょう。私は東の石柱群を見てみます」
「では、私は西ということになるな」
探索中、何かを発見するか異常を感じた場合、大声でお互いを呼び合うことにして、竜次、咲夜、晴明の3人は、それぞれの担当部分に移動し、古代遺跡の調査を始めた。古代人がここまで運び、ある規則性で配置したと思われる石柱を全て調べるのは骨が折れるが、今日の日が暮れるまでの時間はかからないだろう。
合戦中、ソールズベリー平原に降っていた雨は、今止んでおり、平原の北外れに位置するこの古代遺跡地帯にも、薄くなった雲の切れ間から昼の陽が差し込んできている。竜次、咲夜、晴明は、先程まで熊童子率いるオーガ軍と激しい戦いを繰り広げていたため、三者三様に気力体力を消耗し疲れているようだが、秋の柔らかい陽光を受けて輝く、石柱群の神秘性を感じながら調査を進める内に、気力の方は徐々に回復してきていた。
若干スピリチュアルな話になるが、我々は観光などでパワースポットに行き、その場の霊的な力を感じて、自分たちの気力を充実させることがある。古代遺跡を探索している彼ら彼女らも、それと同じ感覚を覚えているのだろう。
「おっ!? お~い!! 石杯があったぞ~!!」
担当部分の探索中、重要な発見をした晴明は、多少興奮しているのか、いつもの落ち着きをどこかに忘れており、らしくないひょうきんな大声で竜次と咲夜を呼び寄せた。呼ばれた2人は、いつにない晴明のおかしな呼び声を聞き、石杯の発見現場まで来たのはいいが、我慢できず吹き出すように笑っている。
「? どうした? 2人とも?」
「ハッハッハッ!! いや、晴明さんの声がおかしかったもんで、不意を突かれましたよ」
「そうですよ。いつも冷静なのに、そんな声が出るんですね。びっくりしました」
竜次と咲夜がまだおかしそうに口を抑えているのを見て、晴明は小首をかしげ、「何のことやら?」と、怪訝な顔をしている。以前、4属性の試練の球体を作り出し、咲夜に修行をさせたときも、最後の総仕上げの段階において、四象の杖を使った法術の唱え方を教え忘れそうになったりと、多少抜けた所がある陰陽師だが、そればかりでなく、どうやら自覚のない天然な性格も入っているらしい。
「よく分からぬが、これを見てみなさい。間違いなかろう」
竜次と咲夜の可笑しみがある程度収まったタイミングで、晴明は2人に目の前の比較的小さな石柱を見せた。石柱最上部に、雨風避けの小さな円形の屋根が付けられており、その下の窪みには、力をほとんど失い石化した、国鎮めの銀杯が静かに存在している。




