第229話 霊的な場
アメリカ先住民に伝わる言葉でこういうものがある。
(地球は先祖から譲り受けたものではない。子孫から借りているものだ)
古くからの精霊信仰に根ざした考え方だが、否定のしようがないほど真理を突いている。現代の地球に住む我々が資源や環境を浪費するほど、後の世代で生きる子孫たちに迷惑や苦労をかけてしまうのは、紛れもない事実だからだ。
「竜次殿、これは面白い場所だな。長く生きて歳を数えるのはやめたが、アカツキノタイラにまだこのような珍しいところがあったとは」
「巨大な石柱の迫力に、体が押されそうな気さえしますね。でも、何だろう……。俺はこういう場所を、どこかで見たことがあるような……」
竜次たちが今、アカツキノタイラで見ている円形配置石柱群は、恐らく太古の昔にこの地で暮らしていた、暁の国の民たちが造り出した古代遺跡なのだろう。置かれている石柱の規則性からすると、古代人が長い歳月をかけて天を観察し編み出した暦や、一日の時間を表す日時計のような、天文学に関連する機能があるのかもしれない。
恐らくこの霊的な場を造った古代人は、後の世の子孫たちに、アカツキノタイラの大地を大切にし、人間は自然に敬意を払うと共に、調和して生きなければならないということを伝えたかったのだろう。地球とは所が変わるが、前述したアメリカ先住民の精神継承と同様な考え方だ。
「位置関係からすると石柱が沢山あるこの場所は、ソールズベリー平原の北側に位置していますね。後ろを向いて南を見ましたが、エイボン川が平原を隔てています。平原から見て、ここは北を流れる川の向こう岸ということになりますね」
咲夜も間違いなく、だだっ広い野原に巨大な石柱がいくつも配置されている古代遺跡を見て、年若い感性が揺り動かされたはずだが、そこはリーダーとしての冷静さで感情を一旦脇に置いたようだ。皆をまとめる主でもある咲夜は、務めとして周りをよく見渡し、今いる古代遺跡はどこに位置するのか、正確に分析している。
自分たちがどこにいるのかを把握する状況分析の中で、咲夜はエイボンという川の名を出した。合戦の前に、宿屋でシャーウッド近辺の地図をよく確認していたから、その川が流れていることに気づいたわけだが、エイボンはソールズベリー平原の北にある大川で、そこを境に平原のステップ地帯は終わっている。竜次たちが今いる古代遺跡の周囲には、低草低木以外に比較的大きな木々が生えており、ここからもう少し北側を見渡すと、森が形成され始めていた。
つまるところ、ここまでは晴明の占い通り、黒鏡面の手鏡から作り出された光の門は、ソールズベリー平原の近くに繋がっていたわけだ。となると、古代人が造ったと思われるこの遺跡を、隈なく探索していけばよいはずだが……。




