第228話 石の柱
熊童子がわざわざ隠し持っていた法具である。何かしら重要な意味があるに違いないが、未知数の危険性を脇に置き、思い切って使う前に、一つ大きな判断材料が欲しい。
「黒鏡系の法具などを使い、作り出された光の門は、今まで例外なく国鎮めの銀杯の在り処と繋がっていました。晴明さん、簡単でいいんです。黒鏡面の手鏡を使った場合、国鎮めの銀杯に近づくかどうか占ってもらえませんか?」
晴明は以前、各地に散らばっている国鎮めの銀杯の在り処は、おおよそ占ってあると話していた。陰陽道的な因果律の影響を少なくするためか、晴明は仲間になって以後、銀杯について語ることはほとんどない。しかしながら、今ここで一番必要なのは晴明の確実な占いであり、それにより黒鏡面の手鏡を使うか否か、決めることができる。
咲夜の頼みを理解した晴明はうなずくと、占いの簡単な準備を行い始めた。彼は、竜次たち一行の仲間になる時、無限の青袋を咲夜から貰い、腰に結わえ付けている。そこから、極めて簡素な棒状の道具を取り出し、両手でそれらを開くように使い卦を立てた。この場で占いの結果が分かるのは、陰陽師の晴明しかいないが、彼は一人、納得した表情でしばらく沈黙している。あまり長く黙っているためしびれを切らしたのか、仙が晴明を急き立ててきた。
「晴明。もったいつけなくていいからさ、占いはどうだったかサッサと教えておくれよ」
「そうだな。卦の立て方が簡素過ぎて分からぬ部分もあるが、国鎮めの銀杯は、このソールズベリー平原の近くにあり、熊童子が遺した手鏡と大いに関係があるとも出ている」
決まりである。簡素な卦とはいえ、ここまで手鏡と銀杯に関連性がはっきり出ているのなら、幾らかの危険性が排除できないにしろ、使わぬ手はない。
この場で採る方針が決まった縁の国の将たち5人は、もう一度膝を詰め寄り、黒鏡面の手鏡により現れる、光の門を誰が潜るかの人選を始めた。手鏡を法具として使えるのは咲夜だけであり、サポート役として誰かがついて行く必要がある。話し合った結果、竜次と、異空間を通る歪に興味を持った晴明が同行することになった。
咲夜が数分間真言を唱え、法力を高める集中の後、黒鏡面の手鏡をかざすと、まばゆい光が前方に照らされると共に、異空間へと通じる光の門が現れる。
「では、竜次さん、晴明さん、参りましょう。あやめと仙さんは、ここでしばらく待っていてください」
縁の国の姫として咲夜はそう指示を残すと、竜次と晴明の2人と共に、光の門へ入って行った。
歪から異空間を通る今回の移動は、呆気ないほど一瞬だった。それは、扉を開いて外に出るのと全く同じ感覚であり、竜次、咲夜、晴明は、光の門を潜ってすぐに切り替わった周りの風景を見回し、驚きのあまり佇んでいる。
規則性のある円形配置で並べられた石柱群が平野に広がる、目の前の神秘的な光景は、彼ら彼女ら3人の驚愕を、更に長引かせるのに十分であった。6匹の強大な鬼の内、四天王の一角である熊童子が隠していた場所、ここにどういった秘密が存在するのだろうか?




