第22話 戦支度
小評定が終わり、その後すぐに出された昼餉は、昨日の宴の食事に比べれば、非常に簡素なものであった。とは言うものの、焼き魚や大根の煮物、白菜の漬物などと共に、大盛りの白米と味噌汁が付いている。栄養価が十分で味が良い、ありがたいご飯であった。
その昼餉を食べようとする前に、竜次はかなり驚いた。頭領夫妻の平昌幸と桔梗も、この評定の間で、同じ食事を取るようなのだ。出陣する竜次と守綱、それに咲夜を、国の最高責任者として見送るため、共に食事を取るのかもしれないが、平一族は、普段特に贅沢な食事をせず、陣中飯に近いこのようなものを食べているらしい。縁の国の統治者でありながら、食から民のことを考え、民がいる世間とズレないようにしているのだろう。
(ますます恐れ入ったぜ、この方に仕えていれば間違いない)
そう感心しながら、竜次は平一族と守綱と共に、黙々と箸をすすめ、よく食べた。
雨上がりから時がたち、空にあった雨雲は、いつの間にか消えている。雨に濡れた広い庭のツツジに陽が差し込み、その葉には、ちょこんとアマガエルが乗っていた。昼餉を済ませた後、宮殿からそれらを少しの間ながめている竜次と守綱、そして咲夜の姿がある。
「そう長く食休みもしておれぬな。竜次、お主には出陣前に軍の支給品が出る。それを説明しておこう」
「ああ、そうだったんですか。俺はてっきり、傷薬やそうした物は、自分で買い揃えるんだと思ってましたよ」
竜次がアカツキノタイラで持っている金は、今、1200カンである。戦支度で幾らか使うつもりで、財布に200カンほど入れてきたのだが、守綱の話を聞く限り、それを使う必要はなさそうだ。支給品の内訳は、傷薬5つ、毒消し3つ、糧食3日分、その他で必要な小物もあるらしい。戦が長引き、足りなくなれば、戦場の陣幕で、補給が受けられる。
「それだけの支給品がもらえるのはありがたいんですが、荷物になってかさばるんじゃないですか? 思うように刀が振れませんよ?」
「竜次さんはそう言うと思っていました。なので、この袋をお渡ししますね。これでその問題は、全て解決します」
傍で竜次と守綱のやり取りを聞いていた咲夜が、渡して見せたのは、紐で閉じるタイプの青い布袋であった。咲夜が腰につけている『無限の朱袋』と形と大きさがほぼ同じである。
「咲夜姫、この袋は?」
「竜次さんに、姫と呼ばれるのはまだ慣れませんね。まあ、私もそのうち慣れるでしょう。これは『無限の青袋』です。私が持っている朱袋より制限がありますが、とても多くの物を縮小して入れておけます。守綱が今言った支給品くらいなら、全てこの中に収まります」
つまり、腰に『無限の青袋』を提げておけば、戦働きにおいて制限はないということだ。これで戦支度は万全、あとは出陣の時刻を待つばかりである。竜次は咲夜から青袋を受け取ると、気合が乗った凛々しい顔で、腰にしっかり結わえ付けた。