第217話 荷車の喧騒
「人ってのはどこで繋がってるか分かんねえもんだな。この歳になってもそう思うぜ。よし! 竜次とあやめ、それに晴明と言ったか! お前さんたちが善兵衛の知り合いというなら、これ以上ないくらいの大サービスだ! 急ぎの急ぎで尚且つ丁寧に、ドウジギリとコギツネマルを鍛え直してやる。2日後を楽しみに待っててくれ」
武器工房の作業場を眺め、何と無い懐かしさから竜次は善兵衛の名を思い出した。それがとても大きな功を奏したようだ。工房の大将の機嫌がすこぶる良くなり、暁白鉱石精錬に向けた作業スピードが、善兵衛の名を出す前より明らかに上がっている。この分なら2日後に想像以上の出来栄えで、2振りの名刀は打ち直されているだろう。
竜次とあやめは、武器工房の大将とおカミさんにドウジギリとコギツネマルのことを全て託し、作業場を後にした。新たな力を引き出されるであろう我が半身とも言える名刀が、どのような姿で戻ってくるか想像し、帰りの道すがら期待に胸を膨らませてもいる。
興味を持って今日一日付き添った晴明は、涼やかな微笑みを竜次とあやめに向けつつ、子供のようにワクワクした顔の2人と共に、咲夜と仙が待つ宿屋へ帰って行った。
刀を預けた以上、出来上がりを待つしかない。
竜次たち一行は、暁の国第2の都市シャーウッドの観光もそこそこに、宿屋での待機を続けていた。アーサー王から、
「はっきりと所在が分かる所に、なるべく居て欲しい」
と、頼まれているのもあり、大した理由もなく宿から動くわけにもいかない。竜次たち一行は、アーサー王にとってみれば、言わば強力な助っ人たちであり、いざというときに連絡がすぐ取れる場所にいなければ、助太刀として働けないため、用心棒のように待機せざるを得ないわけだ。
若干だけ窮屈な状況だが、宿屋の主人が下にもおかず、竜次たち一行に申し訳ないくらいよくサービスしてくれている。拠点とする宿泊施設の快適さから、ドウジギリとコギツネマルの打ち直しが終わるまでそこまでの不便もなく、5人は十分な休養を取れるだろうと考え、実際休めている最中であった。一日目の暁白鉱石精錬までは……。
ろくに寝ずに2振りの名刀を改良するため、武器工房の大将は作業場で下準備を進めている。作業台には精錬が終わり、炉から取り出された、白く輝く暁白鋼が置かれている。
「よっしゃ! ここまでは順調だな! これから鍛造に入るぞ! これだけの代物を打ち直すのは久しぶりだが、やるしかねえな!」
両腕に腕抜きをしっかりと着け、大将は名刀を生まれ変わらせる鍛造作業に向けて、気勢を上げている。傍らで亭主を手伝っているおカミさんの顔も、大仕事前の適度な緊張感で引き締まっていたが、
「ん……? あんた、外が何だか騒々しくないかい?」
作業音が辺りに響くくらいで、他にノイズが無いはずの職人街に、慌ただしい喧騒が走っているのに気づき、何事だろうかと作業着のまま工房の外に出た。
工房前の石畳の道におカミさんが出ると、長年の鍛冶生活の中でも今まで見たことがない数の荷車が、職人街を行き交っている。信じられない光景を前に、おカミさんはしばし呆然と立ち尽くしていた。




