第215話 気に入ったぜ
「やるじゃねえか。竜次と言ったよな? お前さんが採掘したのか?」
これほどの仕事を竜次たち3人が成し遂げて帰るとは思っていなかったようで、武器工房の大将は感心すると同時に大きな驚きを顔に出している。竜次は、無限の青袋から暁白鋼のつるはしを取り出し、工房の大将に返しながら、
「はい。俺が採掘しました。石には目とへそがあるのを、話で知っていたんです。それを思い出しながら、勘所を掴んでいました」
どうやってコツを掴み、これだけ上手く暁白鉱石を取って帰ることができたのかを話した。大将は、竜次が持っていた意外な知識を聞き、一つ驚嘆の唸りを上げている。
「お前さんその話を知っていたのか。ハハハッ! 素人なのに面白いやつだな!」
工房の大将は、親愛の意味を込めて竜次の背中を豪快にパンッと叩くと、本題の仕事に取り掛かる準備を進めながら、非常に重要なことを話し始めた。
「さて、これからドウジギリとコギツネマルの打ち直しをやっていくわけだが、まず金のことを言っておくぞ。お前さん方は、ソールズベリー平原まで行って暁白鉱石を取って来てくれた。苦労して持ち帰った鉱石は、全部うちで買い取ろう」
仕事を依頼するとき、金のことを最初にハッキリさせておかないと、請け負う側と頼む側で、互いに信用が置けなくなってしまう。気がかり無くスムーズに仕事を進めていくため、必要な話だ。
「その差し引きで打ち直しの代金を言うが、2振りで2000カンだ。それでいいか?」
説明を省いていたが、縁の国、暁の国、宵の国で使われている共通の通貨は「カン」であり、レートなどを考えて別の通貨に両替する必要がない。大将が提示している2000カンという金額は高額に見えるが、ドウジギリとコギツネマル、2振りの名刀を改良する代金であるのを思えば、破格すぎる安さだ。
「2000カンでいいなら、今払おう。しかし、本当にそんな金額でよいのかね? 大将?」
晴明が気を遣っているように、武器職人としての大将の腕を考えると、あまりに安い。だが当の大将は、そんなことを微塵も気にせず、
「いいんだ。きっちり仕上げてやる。うちのカミさんに金を渡しといてくれ」
ぶっきらぼうに振り返りもせず、そうとだけ答えた。竜次は言われた通り、傍でやり取りを見ていた大将のおカミさんに、金貨4枚の2000カンを渡した。恰幅のよいおカミさんは、金貨を受け取ると豪快に笑い、
「それだけあんたたちを気に入ったんだよ。うちの旦那はね」
長年連れ添ってきた亭主の気持ちを代弁し、快く刀の打ち直しを請け負ってくれた。




