第210話 気っ風のよいカミさん
シャーウッドの町外れは山麓に近く、山側からせり出した森林の際に沿う形で職人街が造られていた。各職人が働く工房は、いずれも木材とレンガを適材適所に組み合わせて造られた簡素な平屋であり、朝から小気味良い工作音が、建物の中から響いてきている。ただ、どれも同じような特徴の小屋であり、簡単に描かれた地図があるとはいえ、竜次たち3人は、目的地の武器工房を探すのに、少々まごついていた。
(トンテンカン……トンテンカン……)
そこまで急くこともないので、ゆっくり探そうかと竜次、あやめ、晴明の3人が話していたところ、一際、小気味良い金槌の音が一軒の工房から聞こえてきた。アーサー王から貰った職人街の地図と照らし合わせても、目的地の建物と位置がぴったり合っている。
「竜次殿、ここがそうではないかな?」
「そうでしょうね。扉が開いてますし、まず入って職人と話をしてみましょうか」
秋が深まって来ており、森林の紅葉が濃くなったシャーウッドの朝は肌寒い。そうでありながら、工房の扉が開いているということは、秋の肌寒さを感じないくらい熱がこもる作業をしているのだろう。
武器工房に近づくと、一定のリズムで鼓膜に響く金槌の音が段々と大きくなり、開け放たれた扉をくぐり、工房内に入ると、黒いあごひげを蓄えた厳つい武器職人が、幅広の剣を鍛造している最中であった。熟練職人特有の凄まじい集中力で、正確に精度高く剣を鍛え上げている。
「ん? なんだい、あんたたちは? ここは見ての通り武器工房だよ。間違えて入って来たのかい?」
竜次たち3人に気づき、声をかけてきたのは、気っ風と恰幅がよい50代くらいの女性だった。竜次は、先に話しかけてくれたのを幸いと思い、アーサー王がしたためた紹介状を、迫力タップリの女性に渡し、用件を伝えた。
「へぇ~! アーサー王からの紹介かい! それじゃあ、断れないねえ。見ての通りうちの旦那は忙しいんだけど、もうすぐあの剣は打ち終わるよ。ちょっとその辺りに座って待ってな」
どうやら気っ風のよいこの女性は、今、剣の鍛造を行っている武器工房の大将の妻らしい。アーサー王からの紹介状が利き、スムーズに大将へ話を通してくれるようだ。豪快な奥さんの言う事に従い、竜次、あやめ、晴明は、工房内にある簡素な木製のベンチに座り、大将の鮮やかな鍛造作業を見ながら、しばらく待つことにした。
熟練武器職人の一点集中作業は、ややもすると人智を超えたものなのかも知れない。結局、武器工房の大将は、一本の剣を鍛え終わるまで竜次たち3人が入ってきたことにすら気づかず、一仕事が済み、ホッと一息ついたところで、妙な客たちが首を長くして並んで座っているのを、ようやく目に認めた。




