第208話 愛刀
小宴会がたけなわになり、竜次は、とろりとしたチーズがふんだんに乗っているピザを肴に、コクのあるぶどうワインを楽しみ続けていた。酒が強い竜次にとって、ワインはジュースと変わりない物なのか、ほとんど酔うことなく、マイペースな呑み方をしている。
「竜次殿は見た目通り酒が強いんだなあ。大したものだ」
ワイングラスが空になったところを見計らい、隣りに座っていたランスロットが別のぶどうワインボトルを手に持ち、酌を受けてくれるかと、竜次に会釈をしながら聞いてきた。このくらいの酒なら幾らでも呑める竜次に、将軍ランスロットの酌を断る理由はない。
会釈を返した竜次は、台座と脚部分が銀色の光沢を持つ金属で作られたワイングラスを差し出すと、ランスロットが手に持つワインボトルから、なみなみと酌を受け、グイッとグラスの半分ほど呑んだ。注がれたワインは先の戦いの報酬と言える。一仕事成しとげた後のタダ酒は、いくら呑んでも美味い。
「ハッハッハッ! 胸がすくような良い呑みっぷりだ! ところで竜次殿、あなたが愛用しているドウジギリ……それと、あっちにあやめさんが座っていたかな」
大きな円卓を挟んで向こうの席にいるあやめを、ランスロットは手招きしてこちらに呼び寄せようとしている。アルコール分の無いぶどうジュースを飲みながら、あやめはシチューやローストチキンに舌鼓を打っていたが、呼ばれているのに気づくと食べる手を止め、竜次とランスロットが話している所へゆっくりと歩いて来た。
「ランスロット将軍、お呼びでしょうか?」
「うん。なあに、ちょっとしたことなんだ。竜次殿とあやめさん、2人が使っている刀を少しの間、見せて欲しい」
意図はよく分からぬが、ドウジギリとコギツネマル、2振りの刀をランスロットは見たいと言っている。竜次とあやめは一時、顔を見合わせて考えると、
「分かりました。今、手元にドウジギリがないので、砦のロッカールームまで取りに行って来ます」
「同じくコギツネマルを取りに行って来ます。少々お待ち下さい」
ランスロットに断りを入れた後、2人は一旦食堂を出て、自分たちの愛刀を小走りで取りに行った。
食堂と砦内のロッカールームは隣り合っており、少し経つと、竜次とあやめはドウジギリとコギツネマルを帯刀して、食堂の小宴会場に戻ってきた。竜次とあやめが刀を取りに行くため食堂を出た後、円卓の席から一連のやり取りに気づき、興味を持ったのだろう、アーサー王がランスロットと談笑しながら、2人が戻ってくるのを共に待っていた。




