第203話 ランスロット
咲夜の問いかけに答えようと口を開きかけたアーサー王であったが、執務室の窓から差し込む西日の眩しさを感じると、何かが気になったのか、開きかけた口を噤んでしまい、少しの間佇んでいる。それは考えをまとめるための佇みであったらしく、右手首に掛かっていた服の袖をアーサー王はゆっくりまくると、精緻な意匠を凝らした手巻き式ゼンマイ腕時計で時刻を確認した。バンドも含め鮮やかな光沢を放つシルバーで統一された腕時計は、夕方5時近くを指し示している。
「話し込んでいたらこのような時間になっておりましたな、気づきませんでした。ランスロットのことですが、あれは血の気が多くじっとしていられない性質でして、シャーウッドの治安維持部隊100名と共に、オーガたちの討伐に行っております。ランスロットがオーガたちに遅れを取ることはありませんが、予定より討伐日数がかかっているようです。辺りを脅かすオーガの数が意外に多いのかもしれません」
将軍ランスロットの所在について一通り話したアーサー王は、改めて竜次たち一行を見回し、西から眩しく差し込む夕日をしばらく眺めると、
「ランスロットが帰ってこないのは幾らか気にかかりますが、今日はもうすぐ日が落ちていきます。咲夜姫、皆さん、私どもが手配する宿で一晩休んだ後、ランスロットの援軍に行って頂けませんか? 遠方からの客人にこのようなことを頼むのは不躾ですが、あなた方の力を貸して頂きたいのです。お願いします」
全く不遜が無い丁寧な態度で咲夜たち5人に礼を示し、彼女ら彼らが持つ力の、貸与を依頼した。アーサー王が持つ統治者としてのカリスマ性と人となりは、その誠実な頼み方から一層高い評価で感じ取られる。咲夜を始めとする一行は、もとより力を貸すつもりであり、アーサー王の碧眼を真っ直ぐ見ると、快く請け負った。
森林に囲まれたシャーウッドの空気は夜も静かで淀みなく、竜次たち一行は、アーサー王が手配した宿のベッドでぐっすり眠り、長旅の疲れを十分取ることができた。
翌日の朝、咲夜、竜次、あやめはシャーウッドの軍から借りた軍馬で、仙と晴明は天神足で、一団の形は崩さないまま、それぞれ移動していた。アーサー王の話によるとランスロット率いる治安維持部隊は、シャーウッドの少し北にある森と平地が混在した地域で、数日前からオーガたちと戦っているらしい。
「ああ、あそこだね。宿営地が見えてきた。それに……派手に戦ってるのがいるねえ。ランスロットって言うのはあれじゃないかい?」
天神足で移動しながら、仙がいち早く見つけた通り、幅広の分厚く長い刃を持った大剣を自在に振り回し、赤竜鬼の群れを薙ぎ払っていくブロンドヘアの男が、遠目から見てもあからさまに目立っていた。