第202話 独自の文化
「我が国の状況が状況なので、それをまず伝えるのに熱が入りすぎてしまいました。申し訳ない。順序としては逆になりましたが、暁の国がどういう国であるか、その成り立ちなどを話しましょう」
国の窮状を考え、険しい表情を見せていたアーサー王は、ここでようやく顔を少し緩めると、建国以前の黎明期から今に至る、暁の国の歴史について語り始めた。
アーサー王が時間を取って話してくれた中で、暁の国と鬼、独自の文化の3つには、古来から密接な関わりがあることが分かり、それらは竜次たち5人にとって、非常に有用な知識としてそれぞれの頭に収められた。
まず鬼、つまりオーガについてだが、現在に至るまで人々を脅かす化け物が、アカツキノタイラの歴史上最初に現れた場所は、暁の国の大平原、ソールズベリーであると知ることが出来た。オーガが現れ、その化け物たちに人々が立ち向かい始めた太古の時代、暁の国自体はまだ建国されていなかったが、この地域の欧米風文化は既に形成されており、カタカナ語が多様に使われる言語の特徴も表れていたらしい。そのため、鬼のことをオーガとカタカナ語で一般的に呼ぶようになり、オーガと言ったり鬼と言ったりする呼称が、暁の国とは異なる文化圏のアカツキノタイラ全域に、混在しながら広がっていったのだという。
続けてアーサー王は、役所の機能を併せ持つシャーウッドの砦について、もう少し詳しく竜次たち一行に話した。今、アーサー王と竜次たちが話をしているこの部屋は、役所としての執務室であり、アーサー王の居室としても使われている。エディンバラからアーサー王が逃れてきたため、シャーウッドの統治者はアーサー王ということになるが、元々の領主は別に居り、この役所兼砦内の別室で政務を行っているらしい。そういうわけで、シャーウッドにおいてアーサー王は、地域内政を行う領主のサポート役に回っている。
「アーサー王、貴重なお話をして頂き、ありがとうございました。暁の国内での活動が、これらの有益な情報によりスムーズになります。ところで一つ気になったのですが、お話の中で度々名前が出てきたランスロット将軍は、どちらにいらっしゃいますか?」
一通りの話を聞き終わり、咲夜はアーサー王に対し丁重な礼を示した。ただ、咲夜が疑問に思い問いかけているように、アーサー王と共にシャーウッドへ逃れてきたはずの、将軍ランスロットがここにはいない。自身の片腕とも言えるランスロットの所在を気にかけてくれたのが嬉しかったのか、アーサー王は「よく聞いてくれた」と言わんばかりに、清々しい顔で咲夜の方を向き直した。