第200話 キング・アーサー
上品な印象を受ける木目模様がついた扉を開けると、部屋の中に、ひと目見て分かる風格と威厳を兼ね備えた金髪の男が、一人座っていた。やや大柄で引き締まった体躯を持ち、その青い両目に、優しさと厳しさが渾然一体となった強い光を宿している。
「お待ちしておりました。暁の国へようこそ。私が国王アーサーです」
人を惹き込むカリスマ性を持った声と笑顔で、アーサー王は、まず咲夜に右手を差し出し、歓迎の握手を交わした。王としての風格が十分ながら、気さくな性格を持つようである。丁寧に咲夜、竜次、あやめ、仙、晴明の5人全員と握手をした後、アーサー王は10帖程の広さがある洋室のソファーに座ってくつろぐよう、咲夜たちに促した。
「警備や関所の者から話を聞いたと思いますが、恥ずかしながら私と将軍ランスロット、それに兵たちは、国の首都エディンバラからシャーウッドへ逃れて来ました。エディンバラには多くの民たちが残っています。不意を突かれた形とはいえ、情けないことです」
「不意……失礼ですが、不意とは?」
初対面で国王に対し、いきなり疑問を投げかけるのは無礼ではないかと竜次は考えたのだが、アーサーが悔しそうに口から出した『不意』という言葉がどうしても引っかかり、彼は詳細な意味を聞かずにはいられなかった。アーサー王は、素直に思ったことをそのまま伝える竜次の性質を、自身へ向けた質問の仕方と口調で見抜き、実直な彼に好感を持って答え始めた。
「はははっ。そうですな、言葉を濁さずきちんと話さねばなりませんな。『不意』についてですが、まず、少し昔に遡って経緯を話しましょう。我が国の首都エディンバラ周辺に、2年程前、虎熊童子と熊童子という高い統率力を持った強力なオーガが現れました。最初、その2匹が率いるオーガの軍勢に我々は応戦していたのですが、当時のエディンバラには精兵が少なく、多勢に無勢でこちらの旗色が徐々に悪くなっていきました」
アーサー王はそこで言葉を区切り、2年前の無念さを思い出しているのか、歯噛みをして少し我を忘れて悔しがっている。若干の気まずい沈黙により洋室内の空気が変わりかけたが、自然な木目模様の内壁や、シャーウッド特産の木工家具の柔らかい雰囲気が部屋の空気を徐々に整え直し、アーサー王に我を取り戻させた。
「いやすみません、見苦しいところを見せてしまいました。続きを話しましょう。そして、我らが軍の旗色が悪くなってきたある日の夜、虎熊童子と熊童子はオーガの呼笛を吹き、500匹ものオーガ軍を呼び寄せ、エディンバラを取り囲みました。それまでの戦いではオーガの呼笛など使っていなかったのに、どこでそのような物を手に入れたのか……」
オーガの呼笛は鬼の呼笛と同義の道具だが、虎熊童子と熊童子は、アーサー王とランスロットの『不意』を突いた夜から、オーガの呼笛を吹き、オーガたちを今までより自在に統制するようになったという。この経緯は、いったい何を意味しているのだろう?