第20話 数百年前からの不穏
広い宮殿だが、どこからか飯を炊く匂いがする。竜次は今、小評定に参加している形だが、それが終わった後、昼餉を馳走になるのかもしれない。だがそれは、昨日の宴に出た刺し身のような、豪華な食事ではなく、陣中飯に近いものになるだろう。
「縁の国の由来が出てきたので、私からは、アカツキノタイラの由来をお話します。アカツキは文字通り、夜明けの日の出前を指しています。竜次さんは、この世界に来て、果てしなく続く地平線にとても感動していましたね?」
「ええ。どこまで続いているんだろうと、年に似合わず心が動いたもんです」
国鎮めの儀式で咲夜は、体力気力を消耗していたが、少し休むことができ、呼吸が落ち着いている。そして、飾らない竜次の返答を聞き、心が和んだのか微笑んでいた。
「ふふっ、そうでしたね。その暁の時間が終わった後、地平線から現れる日の出の美しさも、ご覧になったと思います。その地平一帯を中心的に治めていたのが、私たち平一族でした。それらのことから、この世界はアカツキノタイラと呼ばれています」
「……咲夜姫、言葉尻を取って悪いんですが、今、『でした』と言いましたね。それはどういった意味ですか?」
咲夜にとってアカツキノタイラの由来は、話しにくく、やや辛いものなのか、説明する中で、少しばかり寂しげな顔になっていたが、竜次に思いがけず『咲夜姫』と、慣れぬ呼ばれ方をされたので、嬉しさと可笑しさがないまぜになり、いい笑顔で言葉を続けることができている。
「縁の国の力が弱まったのです。この国は今でも大国ですが、アカツキノタイラに数百年前から長く不穏が続いたため、統治能力がそれ以前に比べ、徐々に縮小していきました。そして近年になって、その不穏はさらに高まってきています。このままではもういけない、縁の国で話し合った結果、日本で竜次さんにお話しした通り、様々な法具が使える法力を持った私が、国鎮めの銀杯と、その力を借りに参ったわけです」
「なるほど。だが、銀杯1つだけの力では、アカツキノタイラの平穏は戻らなかった。そういうわけでしたか」
どうにも謎だらけだった異世界アカツキノタイラの窮状が、ここまでの経緯と咲夜の説明でよく分かり、竜次の頭の中で散らばっていた点が、線でほとんどつながった。
「咲夜が話した通り、我が国は暁の国と宵の国にも深く影響を及ぼすほどの力を持っておったのだが、それが小さくなってしまった。それゆえ、国境で賊がはびこるようになり、それらの撃退に追われることも度々ある。今現在がそうなのだ」
昌幸は努めて顔に出すまいとしているが、竜次には、為政者として隠しきれない、お館様の苦悩の心奥が痛いほど分かった。誠心誠意助けになろうと、姿勢を正し、次の言葉を待っている。