第2話 平咲夜(たいらのさくや)
鬼すら怯む源竜次が発する剣圧は凄まじく、何もかも怪力で薙ぎ払わんとしていた赤鬼は、明らかにたじろいでいる。
「来ねえなら、こっちから行くぞ!!」
気勢を大きく張った竜次が仕掛けたかと思った刹那、勝負は既に決していた。赤鬼の巨体は胴切りに真っ二つにされ、それを斬った竜次の身は、絶命し前のめりに倒れた赤鬼の後ろへ移っている! およそ人間の速さではない。
(俺がやったのか!? 俺はこんな動きを……)
半ば無意識に、宝刀ドウジギリに導かれるように動いただけなのだろう。竜次は、自分が持っている血糊すらつかない刀身の光を見て、しばし呆然と佇んでいた。
「ありがとうございます! ここまでかと思いましたが、命を拾うことができました。でも……ドウジギリはあなたに共鳴し、あなたはドウジギリを完全に扱えた。なぜなんでしょう?」
「なぜ? と言われてもな。こっちが聞きたいぜ。そうか、この刀はドウジギリというのか。まあ、俺が信じられるかどうかわからんが、どういう経緯か話してくれないか? このままじゃ、わけがわからんぜ」
「ごめんなさい、その通りですね。どこからお話しましょうか……あっ! まだ私の名前も言ってなかったですね。平咲夜と申します」
窮地を助けてくれた竜次に対し深く心を許しているのか、銀髪の美少女、平咲夜はよく喋った。竜次も自分の名前など、必要なことを合間合間に話すのだが、それを聞き終わると、咲夜はまた経緯を細かに喋り続ける。
(俺を信じさせるために、こんな長く話してるんだろうか?)
そう、竜次は考えていたが、ずっと話を聞き続けていると、どうやら違うらしい。咲夜は単に、お喋りがかなり好きな性格なのである。それに気づいた竜次は、「よくわかった。ちょっと勘弁してくれ」と、彼女のお喋りを一旦打ち切った。
「アカツキノタイラか。その世界から来たお姫様なんだな、咲夜は。それで、俺に宝刀ドウジギリを貸してくれたそこのおっさんが守綱っていうんだな」
「おっさんは余計だ! 無礼な!」
「まあいいじゃねえか、俺もおっさんだ」
「うむ……それもそうか。そうかもしれぬな」
噛み合わない時も少々あるが、竜次と兵団長守綱は馬が合いそうだ。何よりドウジギリを手足のように使い、赤鬼を見事倒した竜次は、咲夜たち一行から既に大きな信頼を得ている。それが彼の、奔放で包み隠さない、裏表がない性格を引き立て、人間的に好感を持って、彼女たちに受け入れられているのだろう。