第198話 栄える都市
竜次たち一行を見て、警備兵たちは厳しい警戒態勢を敷いてはいる。しかしながら、善良そうで、且つ只者ではない光を宿した旅の一行の目と、整った身なりを見て、多数いる警備兵の中で彼ら彼女ら5人を、端から完全な不審者と見なす者は誰もいなかった。
「私たちは、縁の国と暁の国の国境にある関所を通ってシャーウッドに来ました。関所の統括責任者である武官から、暁の国を統治するアーサー王のことを伺っています」
毅然とした美しい態度で咲夜は警備兵たちにそこまで伝えると、無限の朱袋の中から、縁の国の頭領、平昌幸の花押が書かれた命令書を取り出し、
「この書にある通り、私は縁の国の姫、平咲夜です。我が父、平昌幸の主命を受け、4人の武官たちと共に、アーサー王の力になりたいと思い、参りました。通して頂いてもよろしいですか?」
自分たちの身分と目的を、無礼にならないよう端的に伝えた。咲夜の気品ある美しい声による説明は、偶然ながら最高の身の証明になったらしく、警備兵たちは皆、片膝を突いて咲夜たちに敬服の意を示し、
「大変失礼致しました! どうぞ、シャーウッドにお入りください! 我が王アーサーがおわす砦まで、ご案内します!」
厳しく呼び止めた無礼を詫びる口上と共に、固く閉ざされた大門を開けると、警備兵の一人が先に行き、竜次たち一行をシャーウッドの中へ招き入れた。
事前に近くの丘の上からシャーウッドの町の形を眺めていた一行だったが、遠くからの眺望と、都市内部に入ってからの町の様子は、また違うもので、竜次たち5人は、国の状況が悪いながらも活気に満ちたこの都市の民たちに、感心しきりであった。
今、竜次たち一行は、警備兵の一人の案内を受け、アーサー王が滞在しているシャーウッドの砦へ向かっている。大通りを歩きながら周りを見回すと、この町には木材加工所や、木材を使った建物、また家具屋が多くあることが分かる。大門がある南側以外、三方を山林に覆われているため、林業が盛んなのだ。
木こりたちが良質な各種の木材を山から伐採して持ち帰り、様々な木材を商業区にいる商人たちが買い付け、工業区の職人たちに仕事と、買い付けた木材を材料としてまず分配する。その職人たちによって作られた、木造の建物や家具が売られることによって利益が出る、シャーウッド独自の経済システムがあるのだという。
林業から始まる工業と商業の循環から生み出された富は、シャーウッドの都市全体を潤し、盤石な要塞としての機能を維持しながら栄えることが出来ていると、道すがら、案内の警備兵が詳しく話してくれた。都市のことをよく知っている、なかなか博識な警備兵であるようだ。




