第196話 国を憂う
快適な神授の宿小屋内で、ちょっとした酒肴がついた晩餉を食べ、それぞれに割り当てられた個室の寝具でぐっすり眠った竜次たち一行は、十分な英気を養い翌朝を迎えることができた。丈夫な革のタープで簡易的に作った馬小屋の中にいる3頭の借馬たちも、飼葉をしっかり食べ、水を飲み、よく休めたようである。
人馬とも、神授の宿小屋を使った旅の要領を最初の一晩でつかむことができ、その後の旅は順調だった。八日市の宿場町から出立した一日目に、赤竜鬼3匹と遭遇したが、それ以降、オーガなどの敵に出遭うこともなく、馬の調子を見ながら旅を進めていったところ、3日目の朝、暁の国に入る関所に竜次たち一行は辿り着いた。ここを通り国境を越えれば、暁の国第2の都市シャーウッドまでもうすぐなはずだ。
「あなたたちは……縁の国から来られたのですね。よくここまでご無事で」
関所を守る兵たちを統括する武官が、西から馬と天神足でやってくる竜次たち一行を、いち早く見つけていたらしく、頑丈な石造りで広さがある守衛所からその武官は出ると、ややもすると珍妙な一行を迎えてくれた。
「はい。私たちは縁の国から来た武官で、あちらにいらっしゃるのは、縁の国の姫、咲夜様です。暁の国からの人の流れが、この数ヶ月の間で著しく減少しているのを、私たちは知っています。その原因を調べるよう、主君平昌幸から主命を受けました。関所を通り、シャーウッドに行ってもよろしいですか?」
5人旅を続けている一行の先頭にいたあやめは馬から降り、統括責任者の武官に一礼すると、自分たちの身分と旅の目的を、端的に伝えた。その話を聞いた武官は甚く驚いた様子で、
「なんと!? もしやすると、あなた方は暁の国の救世主になるかもしれません。関所は勿論お通しします。是非シャーウッドに行って頂きたい」
と、竜次たち一行を、ようやく現れた救いの手と見なし、大げさに言えば、拝まんばかりの様子でそう懇願している。
「それほど国の状況が悪いのですか?」
「恥ずかしながら、悪いとしか言えません。暁の国の首都はエディンバラと言い、国の中心でもあり中枢でもあります。しかし、強力なオーガが現れたことで、今、エディンバラはオーガの軍に占領されており、この国を治めるアーサー王は、第2の都市シャーウッドに落ち延びております」
一行の後ろから進み出た咲夜の問いかけを、関所の武官は面目ない表情で聞くと、自分が今知っている暁の国の現状を説明してくれた。国への忠誠心が強いこの武官は、一通りの情報を咲夜たちに伝えた後、地に両膝をつけ、
「咲夜様! どうか、我が王アーサーに力をお貸し下さい! お願い致します!」
国を憂うあまり額をも地につけた誠心誠意の礼を、咲夜に示している。




