第195話 洒落た造り
晴明は、宿小屋の隣にある納屋の中を少しの間探し、何か分からぬが、筒状に丸めて収められた大きな物を抱えて持ってきた。晴明と竜次が協力して、筒状に丸められた物を広げてみると、それは丈夫な革で作られたタープ(日除けや雨避けのためのシート)であった。
「ああ、そういうことですか。このタープを庭にある支柱に引っ掛けて、馬が休める場所を作るわけですね。分かってきました」
「ほう、竜次殿の世界では、この『革屋根』のことをタープと呼ぶのか。なかなかいい響きの言葉だな、これからはそう呼ぶとしよう。今、竜次殿が言った通り、庭にある5つの支柱にタープを引っ掛け、簡素な馬小屋を作っていく。それほど手間はかからないが、男手2人で組み立てるとしよう」
タープの組み立て方を軽く話し、示し合わせた後、竜次と晴明は、まず高さを調節できる構造になっている5つの支柱を、適当な高さまで低くした。それぞれの支柱の高さを確認した男手2人は、タープの両端を持ち、5つの支柱にタープから出ている丈夫な紐を結わえつけ、その後、中央の支柱を一番高く、四隅にある4つの支柱を程よい高さに調整して上げ、3頭の馬が休める簡易的な馬小屋を完成させた。
咲夜、あやめ、仙の女性陣は、その間に飼葉桶と水桶を用意しており、タープで作った馬小屋内にそれらの桶を置くと、宿小屋近くの蛇口から水をバケツで汲んで水桶に満たし、飼葉桶には納屋にあった飼葉を満杯になるまで、手分けして入れてくれた。
今日一日よく走ってくれた3頭の馬たちは、腹が減っていたのだろう、飼葉桶を見るなり、一目散に長い頭を突っ込み、ムシャムシャと気持ちの良い食欲で飼葉を食べている。ユーモラスで可愛い馬たちの食べっぷりを見て、竜次たち5人は目を細めて和んでいたが、
「馬たちはこれで大丈夫だろう。よく休んで、明日も走ってくれるはずだ。私たちも宿小屋の中に入り、晩餉を食べて休もう」
晴明が時間を見て、皆について来るよう促し、神授の宿小屋の玄関扉を開き、建物内部を案内し始めた。
「これは!? 素晴らしい造りですね! 間取りが広くしっかりしていて、内装も凄くお洒落です!」
豪奢な朱色の大宮殿に住んでいる咲夜が目を輝かせてそう評価するほど、神授の宿小屋内部は良く造られていた。総二階の建物は、一階にある台所付きのリビングを中心とし、個室が二階に3部屋、一階に2部屋も付けられている。内装は白いシックな内壁を基調としており、木目調のアンティーク的なテーブルや椅子が品よく配置され、それらが宿小屋内部全体の洒脱さを醸し出していた。
晴明は、予想以上に洒落た造りの宿小屋にびっくりした、竜次、咲夜、あやめ、仙の4人を見て、非常に気分が良くなっている。いつどこで手に入れたのかは聞かぬと知りようもないが、陰陽師とっておきの宝具を気前良く出した甲斐があったというものだろう。