第192話 赤竜鬼
3頭の馬を借り、竜次たち一行は八日市の街道へ再び出た。竜次、咲夜、あやめは馬上の人になり、仙は天神足の法術で高速移動をする準備が出来ている。一行の内、移動手段をどうするのか分からないのが、晴明だけであるが、それを心配し疑問にも思った咲夜がマイペースな陰陽師に尋ねると、
「私のことは心配ない。仙と同じ天神足でついていく」
脚に丈夫な脚絆を着けながらそうとだけ答えた。晴明の返しを聞いた皆は、
(そういうことか!)
誰しもそう思い、ようやく合点がいったようだ。どうも晴明は、ちょっとしたいたずら心が多い子供のような面があり、重要なことを勿体つけるところが、今までの付き合いから見受けられる。
「私は最初からそうだと思ってたよ。天神足を使うのなら早く言っておやりよ、皆、あんたが何考えてるか分からなくて困ってるだろう?」
「すまんすまん、そう怒るな。そうだな、皆と協力して旅を進めなければならぬからな。今度から、必要な情報は先に伝えておこう」
いたずら心が過ぎると思ったのか、仙は少し強めに晴明を咎めた。最強の陰陽師をこうやって叱ることが出来るのは、付き合いが古い九尾の女狐しかいないわけである。旅の一行をまとめていかなければならない咲夜にとって、仙の強力なサポートは何より心強く感じられ、とてもありがたかった。
八日市を立った竜次たち一行は、馬と天神足をそれぞれ使い、快調な速度で旅を進めている。東に続く街道沿いの景色は一行が先に進むにつれ、流れるような速さで後ろに過ぎ去っていく。街道周りの店舗や民家は何時しかまばらになってきており、夕方近くまで旅を進めたところで、周囲の眺めは草木の生い茂りへと、ほとんど入れ替わっていた。
「ん? あれは、鬼に見えるが……竜にも見える。なんだありゃ?」
暁の国近くまで来たため、縁の国内でありながら漂う瘴気が濃くなってきている。竜次たち一行は、その変化に気づき、皆、警戒しながら馬と天神足で進んでいたが、予感は的中し、数体の鬼が現れた! だが、鬼たちを発見した竜次は、ずんぐりとした図体で鋭い鉤爪を持ち、岩をも噛み砕けそうな牙がついている大口と竜の頭を見て、どういうタイプの敵なのか判断しかね、若干戸惑っている。
「あれは赤竜鬼というオーガだ。名前の通り竜の形をした鬼で、一般的な人形のオーガより強い力を持っている。毒や炎などは吐かないが、油断せず戦いなさい」
どう攻めるか迷っている竜次を助けるため、晴明が敵の解説とアドバイスを送ってくれた。解説の通り、人形のオーガより手強そうではある。竜次は、傍にいる咲夜とあやめを見て示し合わせ、ドウジギリをスラリと抜き、隙のない構えで切っ先を赤竜鬼の頭に向けた。