第191話 元気な馬
八日市の宿場町は、縁の国内陸部東端に位置する交通の要衝である。旅籠などが立ち並ぶ宿場町内を東西南北に街道が通っており、特に縁の国と暁の国を結ぶ東西の街道は、幅広くしっかりと作られている。先程、竜次たちが話を聞いた赤髪の旅人のように、八日市で一旦休息を取り心身の疲労を回復させてから、各々の目的地へ再び歩みを進めるという旅の中継点の働きも、この宿場町は持っている。
欧米風の顔立ちをした赤髪の旅人は、旅立ち際に、暁の国第2の都市シャーウッドまでは、ここから馬を使って2日半の距離だ、という重要な情報をくれた。竜次たち一行はその情報に従い、今、馬屋に向かっている。馬屋は街道沿いの旅籠街から少し外れたところにあったが、かえってポツンと馬が繋がれている建物が目立っており、すぐに探し当てることが出来た。
「おじさん。馬を4頭貸してくれませんか? 暁の国のシャーウッドまで馬を使いたいんです」
「ああいいよ。元気がいい馬がちょうど4頭いるんだ。どうだい? 毛ヅヤがいいだろう? ただ、シャーウッドまでとなると、なかなかの遠乗りになるなあ。大丈夫かい?」
あやめが話しかけた馬屋の店主は、ガッチリとした体格の気さくな初老の男であり、馬4頭を160カンで快く貸す段取りをつけてくれた。だが、暁の国の内情とシャーウッドまでの遠さが気になるのか、借馬を頼んだあやめを心配そうな目で見てもいる。
「なあに、心配ないよ。途中で馬を休ませる算段はついている。シャーウッドに着いたら馬の駅へ、今と変わらない良い状態で全頭返しておくさ。それと、借馬は3頭でいい。せっかく4頭用意してくれていたようだが、すまんな」
竜次たち一行は5人で旅をしている。なので、この馬屋の店主は、借馬4頭と聞いた時に少しだけ怪訝な顔をしていたのだが、晴明は更に1頭減らして欲しいと言っている。九尾の狐の仙は馬を使わず、天神足の法術で滑るように高速移動出来るのを、竜次たちは知っている。だが、晴明はどうやって馬上の竜次たちについていくのだろう?
「3頭? うーん、まあお客さんがそう言うんなら、こっちはその頭数で貸すしかないんだが……どうするつもりなんだい?」
「ふふふ、良い手があるのさ。馬は無事にシャーウッドへ繋いで返しておくから心配ない。必ず約束しよう」
晴明が何をもって自信満々に請け負っているのか、今は分からない。晴明は、首を傾げて一連のやり取りを見ていた咲夜を促し、借馬3頭の代金120カンの支払いを、それとなく任せた。