第190話 一期一会
「雨がもう少しで止みそうですね。俺たちは東に行こうとしているんですが、やはり雨で道が悪くなると足が進みにくくていけねえ」
「おや? 東というと、暁の国に用があるんですか? 私はそこから来たんですが、今、暁の国はちょっと危ないですよ」
赤髪の旅人は、どうやら暁の国の民らしく、話している言葉は日本語とほとんど同じ、アカツキノタイラ語だが、例えるなら欧米風の異国情緒豊かな顔をしている。なぜ顔立ちが自分たちと違うのか、会話をしながらも竜次は疑問に思い、気にはなった。しかし、異国風の顔立ちのことを赤髪の旅人に聞くのも不躾であろうと考え、竜次はそれに触れず、話を進めた。
「危ない? 何か不穏なことが起こっているんですか?」
「ええ、私は暁の国の西端から来たので、あまり詳しいことは分からないんですが、国の中心部辺りに強いオーガが現れたと聞きます。最近、そのオーガが力をつけ始めたのか、国の乱れが広まってきていますね。なかなか大変な状況で、私は八日市までやっとたどり着いて、ようやく安心したものです」
仙が東の方向から嗅ぎ取った、瘴気の濃さ通りということだろう。赤髪の旅人は言葉を続け、今の国の状況だと暁の国から見て、国境西部にある第2の都市シャーウッドに行くのが良いと教えてくれた。暁の国に入れる箇所は幾つかあるが、国中心部に直行するのは現状において危険で、シャーウッド方面から入るのが一番安全だという。
赤髪の旅人と竜次たち一行は、その後も談笑しながら茶屋の名物、みたらし大団子を一緒に食べた。一通り団子を頬張り、ほうじ茶の残りを全て飲み終えた赤髪の旅人は、
「それでは、くれぐれもお気をつけください。お元気で」
そう言い残すと、雨が上がった八日市の街道に入り、西に旅立って行った。竜次たち一行にとって、一期一会の良い機会で、素晴らしい情報が得られたと言えよう。
赤髪の旅人と談笑している内に話が砕けてきたので、なぜ異国風の顔立ちをしているのかも聞くことが出来た。旅人の話によると、暁の国の民は、地球で言うアジア風やアラブ風などの顔をした者もいるが、大方は欧米風の顔立ちをした者が多いそうだ。話す言葉はアカツキノタイラ語で、縁の国、暁の国、宵の国ともに共通なのだが、暁の国はいわゆるカタカナ語が多様で、会話や書き物などにおいて比較的頻繁に使うらしい。暁の国第2の都市がシャーウッドというカタカナの都市名なのも、その話し言葉と暁の国の特徴に由来しているのだろう。
ともかく、有力な情報により進路が明るくなった。竜次、咲夜、あやめ、仙、晴明の5人は、大きなみたらし団子をきれいに平らげた後、陽光が差し始めた街道に戻り、休息で軽くなった足を進めていく。




