第183話 最強の陰陽師
「あなた方の旅に同行しよう。私と一緒に行くのなら鬼や銀杯のことを、今、占う必要はあるまい」
『えっ!?』
晴明の口から出たあまりに意外過ぎる言葉に、竜次たち一行は二の句が継げなくなっている。それどころか、皆、目の前で変わらない涼やかさを醸し出している陰陽師が、今何を言ったのかすら、少しの間理解するのに手間取ってしまった。
「本気で言ってるのかい、それ? あんた悪いもんでも食べたんじゃないだろうね?」
「今日の早朝は、味噌汁と佃煮でご飯をしっかり食べた。昨晩も変わったものは食べていない。正気だよ」
一行の中で一番古くから晴明と付き合いがあるのは仙だ。アカツキノタイラ随一の力を持つ陰陽師の性格をよく知っている九尾の狐なだけに、仙は晴明が口にした言葉をにわかには信じられず、一時の間を置いた後、まず彼を疑って問い質した。他の意図を何かしら含ませているのだろうと思い、悪態混じりに聞いたわけだが、晴明は至って正気の本気である。
「何時ぞやだったかあなた方が賊を討伐して以来、日陰の村にそういったヤカラが寄り付くこともなくなり安全になった。村の皆は格別の感謝を、あなた方に抱いているよ。それに、ここでの隠居暮らしも飽きてきたところだから、旅について行くのは私の気まぐれさ。理由としてはそんなところだ。これからよろしく頼むよ」
最強の陰陽師が仲間になる。竜次や咲夜たちにとって、望外の喜びどころではない状況であり、忍びとして徹底したリアリストのあやめなどは、
(本当のことなのよね? これ?)
自分が今見ていることが信じられず、軽く自身の腕をピシャリと叩いてみた。間違いのない痛みが、あやめの左腕に走っている。
白壁の庵の外ではスズメやヒヨドリが庭木の周りを飛び交い、のどかな村にふさわしい、風情ある鳴き声のハーモニーを奏でている。日陰の村を照らす日も、おやつ時から更に高くなり、時刻は真昼近くまで進んでいた。
晴明は竜次たち一行の仲間になった。これから行動を共にする彼ら彼女らは、今何をしているかと言えば、超速子調理器が置いてある台所などに立って、一緒に昼餉の支度をしている。
「昼だから、まず腹ごしらえをしないとな。なあ、竜次殿?」
「全くです。腹が減っては戦はできぬ」
相性が良い竜次と晴明は、早くもツーカーで通じる仲となったらしく、日陰菜と豚肉で肉野菜炒めを作っている晴明の横で、竜次は豆腐の味噌汁を炊いていた。二人とも一人暮らしが長いという共通項があり、自炊能力がよく身についているようだ。