第178話 信頼
「さて、竜次。お前の上司である守綱は評定の間を出たが、ここに今までの旅でよく見知った仲間が残っている。気づいておるな?」
「はい、よく分かっております」
「うむ、それなら良い。では、竜次、あやめ、仙、それに咲夜へ主命を申し渡す。日陰の村に今一度行き、暁の国と宵の国、及び残り4匹の強大な鬼と国鎮めの銀杯の関連情報を、晴明の占いにより手に入れよ。これはお前たちにしか頼めない主命じゃ。達成期限は区切らぬが、なるべく早く成果を上げて帰ってきて欲しい」
強大な鬼たちを倒し、残り4つとなった国鎮めの銀杯を手に入れねば、アカツキノタイラ全体の平和は戻らない。その最終目的をクリアするため、咲夜を始めとする4人は、また長い旅に出なければならないのだが、今は旅を続けるための、有力な情報が途切れてしまっている。闇雲に当て所もない旅を続けたところで、残りの銀杯を手に入れられるはずはない。晴明の先を見通す力がどうしても必要だろう。
「はっ! 承りました! 皆と準備ができ次第、咲夜姫をお守りしつつ、日陰の村の晴明を訪ね、主要な情報を手に入れます」
「よし。竜次、咲夜、あやめ、仙、任せたぞ」
4人を代表して、竜次が口上と共に拝命すると、彼は静かに立ち上がった。竜次は、同じ主命を受けた皆と目で示し合わせ、晴明の庵に向かう準備を整えるため、咲夜を含めた3人と共に評定の間から立ち去った。
あとに残ったのは昌幸、桔梗、幸村の平一族のみである。大評定に出席した配下への主命申し渡しを終え、君主としての重責から解放された頭領昌幸は、脇息に身を委ね、体を楽な体勢で休めていた。時折流れ込む秋の薫風も、昌幸の仕事ぶりを労っているようである。
「お疲れ様でした、お前さま」
国の最高責任者の伴侶として、長年、夫と連れ添ってきた桔梗は、一仕事終えた昌幸へ、いつものように、陶磁器の急須で熱いお茶を一杯淹れ、そっと差し出した。
皆がそれぞれの主命を受けた翌日の朝。
旅支度を昨日のうちに全て済ませた、竜次、咲夜、あやめ、仙は、旅に出る前の、いつもの集合場所となってきた大宮殿の前庭に集まっていた。
「さて、それじゃまた晴明のところに行こうかね」
「ふふっ、ここから日陰の村へ飛ぶのも恒例になってきましたね」
忍びの自分が、毎回仙の縮地で楽をし、晴明の庵へ行っているのが、何やらおかしく感じたのだろう。あやめの笑ったあどけない顔は、控えめなピンク色の撫子が一面に咲いたように、慎ましくも可憐な華やかさがある。