第175話 立証
静かな読書時間が昼近くまで流れ、咲夜、竜次、仙の3人は、それぞれ分担となっていた資料を全て読み終えた。3人が得た調査結果は持ち寄られ、咲夜がノートに丁寧な字でまとめている。まとめとして書かれた内容は、おおよそこうである。
鬼と国鎮めの銀杯は、相反する力を持つものであるが、同時に、今まで倒してきた金熊童子、星熊童子といった首領格の鬼たちは、銀杯の力が自分たちの存在を脅かすものだと分かっている。そうであるので、残り4匹となった強大な鬼たちも、国鎮めの銀杯を奪われまいと守っている可能性が高い。しかし、星熊童子の場合のように、国鎮めの銀杯が持つ相反する力に対して鬼は近づくことができず、自分たちの手元近くには銀杯を保管できない。
2つ目の国鎮めの銀杯は、仙が庵の仏壇に供えていたものを譲ってもらったわけだが、1つ目と3つ目の銀杯については、いずれも日本に飛んでいったものを手に入れた経緯がある。その経緯に強い引っ掛かりを今まで感じていた咲夜は、ノートに自分でまとめた調査結果を何度も見返し、考えることで、ようやく頭の中を巡っていた疑問が全て解消されたようだ。
「俺にも分かってきましたよ、咲夜姫。国鎮めの銀杯が日本にあった理由が。そういうことだったんですね」
「ええ。星熊童子のケースを例に考えると、光の門から異空間を通して、アカツキノタイラと表裏一体の日本に、銀杯が飛ばされていたのでしょうね。あるいは、銀杯と相反する力を持つ星熊童子が、敢えてそういう形を取ったのかもしれません」
首領格の鬼たちは、国鎮めの銀杯に近づけない。その新たな事実は、アカツキノタイラに平和を取り戻そうと各地を旅する竜次と咲夜たちにとって、もう一つ有利な状況が今あることを立証していた。
「いいことが分かったね。調べてよかったよ。そういうことなら残り4匹の強い鬼たちは、銀杯を砕いて壊せないわけだね。杯を手に持つどころか、近づけないんだから」
仙が掛けていた丸メガネを取りながら話している通り、人間側にとって、そうした好ましい結論が得られる。少なくともこれから続ける旅において、石化した銀杯を鬼たちに壊されるといった心配は、しなくてよいだろう。
その後、数日が経った。
秋がすっかり深まり、朱色の大宮殿の前庭に立つ庭木の紅葉も、日毎、色の深みを増している。その大宮殿内に目を向けると、縁の国の主立った者たちが、評定の間に集まっている壮観な光景を見て取れる。流麗な山水画の屏風が置かれた君主の席に、頭領平昌幸が威厳十分に座っており、集まった臣下を見回し、これからの国の方針を決める評定を始めようとしていた。