第174話 読書の季節
星熊童子を倒し、残る強大な鬼は4匹となったわけだが、咲夜は首領格と言える4匹の鬼たちと国鎮めの銀杯に関して、何らかの引っ掛かりを感じているらしい。竜次と仙の2人にも、その問題を共有してもらい、
「朱色の大宮殿の書庫で、一緒に調べて欲しいことがあるんです」
と、三日月目に凛とした光を戻し、今日一日時間を割くよう、咲夜は頼んでいる。竜次と仙は、心身によく響く銀髪姫の声を聞き、緊張感を取り戻したようだ。主人の咲夜に向けて意に従う返事をすると共にうなずくと、2人は外出の身支度をすぐ整え始めた。
大宮殿の地下書庫は、秋の高い空から注がれる優しい陽光が、今日も空間内によく取り入れられていた。涼しいそよ風も、どこからともなく流れ込んで来ており、読書にはうってつけの環境がほぼ完全に揃っている。
「こんにちは。事前に予約していた通り来ました。中に入ってもよいでしょうか?」
「ええ、お待ちしておりました。閲覧室にお通り下さい。一通りの用意をしてございます」
縁の国における生き字引の書庫管理官は変わらず元気なようだ。地下書庫の主である老翁は、咲夜たちの姿を目に認め、銀髪姫からの挨拶と断りを受けると、見ていた書物を閉じ、よちよちとした足取りでテーブルが設えてある閲覧室に、3人を案内した。
閲覧室のテーブルの上には、古い書物が何冊か置かれていた。咲夜が残り4匹の強大な鬼について調べたいと、事前に連絡していたのだろう。書庫管理官たちがある程度の見当を付け、数多くある大きな書棚から資料を引っ張ってくれていたようだ。優秀で気が利く管理官のおかげで、調査に取り掛かる手間が随分と省けたことになる。
「それでは、手分けして調べていきましょう」
咲夜は竜次と仙に、それぞれの分担となる書物を渡すと、レポートに取り組む学生のように、無限の朱袋から取り出した一冊のノートを開き、4匹の首領格の鬼について調査を始めた。
閲覧室に取り入れられている秋の陽光に超速子デスクライトの光を足して、3人は静かに古い書物をしばらく読み続けた。竜次は、まだまだ日本とアカツキノタイラの文体表現の違いなどに慣れないようだが、咲夜にところどころ教えてもらいながら、分担された資料を読み進めていく。
(へえ~、そういうことだったのかい。長いこと生きてるけど知らなかったねえ)
仙は読み物をする時に使う縁無しの丸メガネを掛け、書物をじっくりと読んでいたが、どのくらい生きてきたか分からぬ九尾の狐にとっても、深い興味を覚えるほどの知識が得られたようだ。
仙が手に取って読んでいる書物の表紙には、『鬼と国鎮め』という題名が書かれている。