第17話 大金を持った帰り道
店主は乙種甲冑装備を、無料で竜次に譲っただけでなく、レッドオーガと真黒き怪異を倒したとき手に入れた宝珠を、なかなか良い金額で買い取ってくれた。レッドオーガの宝珠1つは金貨2枚、真黒き怪異の宝珠1つは銀貨2枚、合わせて1200カンという額である。異世界アカツキノタイラの通貨単位は『カン』という。
「竜次、お主は急に大金を手にしたが、遊びに使いすぎぬようにな。連理の都は栄えていて面白いが、誘惑も多い」
「はあ。この1200カンって金は、そんなに大した額なんですか? こっちの世界で初めて手にした金なんで、どうもピンとこねえなあ」
竜次は実感が持てていないが、大金なのだ。彼は足軽大将に任ぜられている。その月給が800カンである。縁の国において、軍の階級を持っている層の待遇はとても良く、例えると、竜次が自分を含めた4人家庭を持っていたとしても、800カンという給料があれば、ひと月、楽に養える。そうであるので、当座の支度金としては1200カンという金は破格であった。
まとまった金が手に入ったことよりも、竜次は素晴らしい防具を譲り受けたことが嬉しかった。だが、戦隊スーツのような防具一式をもらったにもかかわらず、彼は大きな荷物をどこにも持っていない。どういうことかと言えば、竜次が腰に下げている宝刀ドウジギリの柄に仕掛けがある。
(一回、試しに着けてみたが、魂消たなあ。異世界ってのは魂消ることだらけだ)
武具屋での不思議すぎる試着体験を、竜次は月明かりを見ながら思い出している。
店主はガラスケースから乙種甲冑装備を取り出すと、指でつまめるほどの大きさしかない青いボタンに、その防具一式を縮小して収納してしまった。そして、ドウジギリの柄に幾つか空いている、小さな穴の1つにボタンをうまい具合にはめ込んだ。
「よし、これでよいでしょう。竜次様、この刀の柄に付けたボタンを、押してみて下さい」
かさばっていた防具が小さなボタンに収まった時点で、竜次は呆気にとられていたが、店主の親父に言われるがまま、ドウジギリの柄に新しく付いた、青いボタンを押してみた。すると、一瞬ボタンとドウジギリ、それに竜次の体が七色に光り輝いたかと思うと、いつの間にか竜次は乙種甲冑装備を身に着けている。
「えっ!? 何が起こった!? ボタンを押しただけで、俺は変身しちまったぞ!?」
「はっはっはっ!! 変身はよかったな! その青いボタンには、縮小の法力が使われており、刀の柄に付けると仕掛けが連動して、ボタンを押すだけで防具一式を装備できるのだ。もう一度押すと、普段着に戻るぞ。便利であろう」
守綱は、部下である竜次の純粋なリアクションが面白いらしく。大笑いしながら上機嫌で説明した。もう少し詳しく聞くと、この驚くべき装備様式は、軍の階級持ちにのみ許されているものらしい。