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鬼斬り剣士の異世界平定記  作者: チャラン
第4章 縁の国・平定編(後編)
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第169話 凪の海

 秋のそよ風に、田の稲はサラサラと実った穂を擦り合わせている。竜次と咲夜は、ノスタルジックな風景が広がる田舎道をゆっくりと歩き進み、2人を待っていたかのように静かに輝く、光の門の前まで戻ってきた。この門を潜れば、竜次の故郷からアカツキノタイラへ帰ることになる。それを思ってか、竜次は光の門を敢えてまだ見ず、故郷の鄙びた風景を噛みしめるように、遠目でじっと眺め続けていた。


「竜次さん……帰りますか?」


 咲夜は竜次の里心を察し、しばらく昔を懐かしむ彼の佇みを見守っていたが、意を決して、()()()()()()()()尋ね方をした。銀髪姫の言葉は、懐古の情に駆られる竜次の心を逡巡したようだが、やがて、


「うん、帰りましょう。アカツキノタイラに」


 未練なくスッキリとした顔で、彼はそう答えた。竜次の爽やかな笑顔とその答えは、咲夜を心からホッとさせたが、同時に彼女は、


(私はズルい女なのかもしれない)


 と、心奥で想い人の彼に対する罪悪感を幾らか拭えないでいる。ただ、自分の想いを遂げるために罪の意識が生じているのは、咲夜が女として優しすぎるからだろう。




「よかった……ちゃんと帰ってきたんだね」


 光の門を通り、竜次と咲夜は仁王島の地下空間に帰ると、情が深い九尾の狐の仙に出迎えられた。仙だけではない。星熊童子とオーガ軍との激戦をくぐり抜けた精兵たち、そして今まで苦楽を共にしてきた守綱、あやめも、みんな仙と同じ顔で2人の帰還を喜び、胸を撫で下ろしている。


 咲夜が3つ目の国鎮めの銀杯を無事手に入れたことを皆に伝えると、広い地下空間にドッと歓声が沸き起こった。アカツキノタイラの平穏に、また一歩近づいたわけだが、まだ手に入れる銀杯は4つ残っている。咲夜は将兵たちと喜びを分かち合いつつも、縁の国と世界の平和は道半ばであることを訓示し、軍団長として軍の気を引き締め、鬼の巣であった地下空間から皆と脱出した。




 爆発的な一矢を震天弓から放った後、体力の回復を図りながら精兵100名と共に、鬼の巣入り口周りの監視と退路の確保を行っていた与一と、咲夜たち討伐軍は地上に出て無事合流することが出来た。その後、将兵たちは仁王島の岸まで移動すると、それぞれ接岸していた船に乗り込んでいる。とてつもない妖力を持った星熊童子との戦いを皆は思い起こし、自分たちが生きている実感と命を落とした仲間への哀しみが複雑に絡み合った心で、咲夜たち討伐軍は結の町へと帰還の航路を取った。


 縁の国にとって長過ぎる一日だったが、成し遂げた軍を送る海は、彼ら彼女らを(いたわ)るように終日穏やかであった。

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