第162話 仁王島の戦い・その4
「その耳と霊力……! あんたは九尾の狐ね!? 人でないあんたが、なぜ人間を助けているのよ!?」
仙は人の姿に極めて近い形をしているが、人外であるという点において、人間よりむしろ鬼に近い存在だ。それなのになぜ人に手を貸すのかと、星熊童子は忌々しさに歪んだ表情で九尾の女狐に問い掛ける。仙は青肌の女鬼から問を受け、相手のお株を奪う不敵な笑顔を浮かべつつ、その中に若干の憐れみを込めると、
「星熊童子と言ったっけ? そこにお前がさっき、気に入らないと言った男がいるだろう? 私はこの男が好きなんだよ。好きな男がたまたま人間だったから助けてるだけさ、お前には分からないだろうね。可哀想に」
他者を愛する感覚が理解できない星熊童子に対し、本心からの答えを返した。自分を親と慕うオーガたちすら、戦いの道具としか見なさない冷酷な女鬼は、仙の言っていることが全く分からず、少しの間、意外すぎる言葉に考えを巡らせていたのか、動きが固まってしまった。仙はその僅かな機を逃さず、
「私たちの法術だけだとちょっとキツイね。刀も使わないと駄目だね。咲夜ちゃんが言ってたけど、突破口は私たちが開く。竜次、あやめちゃん、その後は任せたよ」
四象の杖を構える咲夜と、甲種甲冑装備を装着し、刀を構えている竜次とあやめに、法術と物理攻撃を合わせた総攻撃をかけようと示し合わせた。仙の周りで戦闘態勢を取る3人の将は、九尾の狐の提案を聞き、即座にうなずく。攻め方としては、これしかない。
「今度は風の法術でいくよ、咲夜ちゃん。用意はいいかい!」
「はい!」
咲夜と仙は、緑色に輝く法力と霊力を両掌の間に集中させると、星熊童子を見据え、力を解き放った!
「青龍刃!!」
「双鷹刃!」
四象の一、神獣青龍の力を借りた猛烈な風の刃と、仙の莫大な霊力により生み出された二匹の風の大鷹が、全てを切り裂かんばかりの高速で、星熊童子目掛けて飛んでいく!
「鬼炎壁!」
瞬間的に妖力を解き放った星熊童子は、厚い炎の壁を作り出し、咲夜と仙が撃ち放った強力な風の刃を、全てかき消さんと試みた! だが、青龍刃と双鷹刃は風の力を鬼炎壁の一点に合わせ、力を失いつつも分厚い炎の壁を突き破る!
「小賢しい!!」
星熊童子は、炎の壁で弱まり小さくなった双鷹刃を見切り、素早く身を引きかわす。しかし、二匹の鷹の後に続いてきた勇敢すぎる将たちの攻撃は、冷酷冷静な女鬼の想像を完全に超えていた!
「ウオオオォォォオオッッ!!!」
「ハアアアッッ!!!」
青龍刃と双鷹刃の力が一点集中し、炎の壁を突き破った大穴から、竜次とあやめが凄まじい気合声を発しつつ現れ、身を引きバランスを崩している星熊童子に神速の刃を振るう!