第160話 仁王島の戦い・その2
自身を親と慕うオーガたちの1体が倒されたにも関わらず、星熊童子の吊り目は冷酷なままだ。レッドオーガが守綱のコテツにより斬られ、青い女鬼は一瞬だけ歯噛みをしたが、再び静かな冷たい表情に戻ると、戦闘態勢を取った竜次たちの様子を総合的に観察し始めた。竜次たちは冷たい視線に見据えられ、動きを封じられたように攻めるのを躊躇している。それを察した青肌の星熊童子は不敵に笑い、妖力を手のひらの間に集中させると、
「鬼岩衝!!」
赤く禍々しい妖力が蓄えられた両手のひらを前方の空間に向け、強力な地の妖術を放った! 無数の岩が何もない空中に現れたかと思うと、妖力により高速で勢いをつけ、咲夜たち以下の将兵を粉砕せんばかりの圧力で飛びかかってくる!
「玄武陣!!」
だが、こちらも手をこまねいていたばかりではない。咲夜は、星熊童子の異常な強さの妖力を察知すると、いち早く四象の杖をかざして印を結び、神獣玄武の力を借り水の防御結界を味方へ広く張った! ドーム状に聖なる青さで味方の将兵を包む結界は、星熊童子が放った鬼岩衝の妖術を弱めていき、高速で飛んでくる無数の岩は玄武陣の中に入ると、こちらへ向かい飛びかかる勢いが見る見るうちに緩まった。オーガの群れに応戦している精兵の中には、鬼岩衝をかわし切れず被害を受け、負傷した者もいるが、飛ぶ岩のスピードが緩慢になったため、被った損害は最小限で済んでいる。
「チッ! 一発で大体の片がつくだろうと思ったが……あんたたち案外やるようね! 金熊童子を倒しただけはあるというわけね」
星熊童子は放った妖術を防がれ、切れ長の吊り目を少し見開き驚いていたが、すぐに余裕の妖しい含み笑いに戻っている。一方の竜次と咲夜たち将兵は、星熊童子が秘める莫大な妖力が、金熊童子の比でないことを、皆、悟らざるを得なかった。竜次は、冷酷な美しさを示す女鬼に刀の切っ先を向けつつ冷や汗を滲ませ、
(どう攻めたらいい!?)
咲夜を後方にかばいつつも焦っている。
玄武陣の法術は、咲夜が今まで使っていた堅陣の法術と同じ、守護結界を張る術式なのだが、四象の杖と水を司る神獣玄武の力を借りているため、守護の防御結界を張った後、術者の咲夜は自由に行動できる。従来の堅陣を張っている時、咲夜は法力を集中し続けなければならず、堅陣の守護結界を解かないとその場から動くことが出来なかった。
「竜次さん、大丈夫。私が突破口を開きます」
星熊童子の絶大な妖力に圧せられ焦りつつも、竜次は懸命に咲夜をかばい続けている。咲夜は竜次の背中から見える不安を癒やすように、彼の右肩へ後ろから優しく温かい手を置き、竜次の精神的な焦りを全て取り除こうとした。